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”ノット”や”もっと”について考える、いくつかのお話(その1)本田雅一のTV Style

» 2012年04月09日 00時35分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 またもやITmediaの編集Sからリクエストがあった。今回は「“ノット”とか“もっと”とか、そういうので何か書いてください」という。相変わらずのざっくりとした要望はともかくとして、“ノット”も“もっと”も4月始めにスタートしたのでタイムリーな話題ではある。そんなわけで、こうした”従来のテレビ放送ではない新しいもの”について、何回か話を進めていこう。

サービス名 概要 スタート日時
「NOTTV」(ノッティーヴィー) 携帯端末向けのマルチメディア放送局 4月1日
もっとTV」(もっとテレビ) テレビやレコーダー向けのVODサービス 4月2日

 ”ノット”とは、もちろん地デジ化で空き地となったVHF(High)帯域の再割り当てに伴い始まった、mmbiによる新しい放送「NOTTV」(ノッティーヴィー)のことだ。この帯域はモバイル端末向けの新しい放送サービスに割り当てられたもので、スマートフォンの利用を前提にしたリアルタイムの双方向通信と放送の融合が特長とされている。Twitterやfacebookとの連動は、双方向性を生かした機能の1つ。

4月1日の「NOTTV」開局記念セレモニーには、番組を持つことになったAKB48のメンバーが駆けつけ、番組への意気込みを語った

 さらに端末がメモリストレージを持っていることを活用し、蓄積型コンテンツの機能もある。これは、端末にデジタルデータが降り注いでくるイメージ。放送は番組表の時間に沿って行われるものだが、あらかじめ内容が決まったコンテンツならば、視聴期間をある程度決めた上で、いつでも再生できるように端末内にデータを送り込んでおける。

 送り込んでおけるデータは、必ずしも動画だけではない。電子コミックや音楽でも構わないわけで、将来はリアルタイムの番組視聴以外で、スマートフォンユーザーが楽しみたいと考えるあらゆるタイプのメディアが配信される可能性がある(現在はまだ動画だけだけどね)。再生期間の限定が容易なので、プロモーション用にコンテンツを通信インフラに負荷をかけずに大量配布できる。

 と、こうした特長を持つ”モバキャス”を、従来のテレビとは違うものだという意味を込めて、「テレビではない」=「NOTTV」と名付けられたわけだが、サービス開始当初の現在を見ると、あまり良い評判は獲得できていない。というよりも、前評判からして失敗するに違いないという意見が多かった。

 NOTTVの評判に関しは、いくつもの切り口の話が混ざって伝わっていることも混乱の原因だと思う。(現時点の)ハードウェアの話、放送内容の話、Twitter連動など通信との融合に関する話、モニター用端末固有の問題。これらの話題が雑多に重なってしまっている。

 まず、NOTTV体験モニター向けに貸し出された端末に不具合があった(→関連記事)。シャープの名誉のためにも書いておくと、貸し出された「SH-06D」本体に問題があったわけではなく、貸し出し用にインストールされていたモニター向け専用ソフトの問題のようだ。

 バックグラウンドで何かプログラムが動いたままになっていたようで、何もしていなくてもバッテリーがグングンと減少。さらにNOTTV視聴用アプリが起動しないというトラブルが頻発した。これはドコモショップなどでアップデートしてもらうと正常になる(製品版のSH-06Dは、現世代のAndroid端末の中でも待ち受け時の省電力性能やドロワーやロンチャーの使いやすさなど完成度の高い端末だと思う)。

NOTTV対応機は2機種。「MEDIAS TAB N-06D」(左)と「AQUOS PHONE SH-06D」(右)

 このように、まだ対応するスマートフォン端末が1機種(+タブレットが1機種)で、ユーザー数が限定されている状況においてトラブルが発生。NOTTVを実際に体験できていない人が大半の中で、”NOTTV対応端末”に対する悪評が先行してしまった感がある。

 確かに高解像度のデジタル放送を表示するため、端末への負荷は小さくない。電力消費もワンセグより大きい。この問題は時間とともに解決すると思うが、技術の進歩による時間を経れば徐々に解決していくだろう。ドコモは一部海外メーカーを含むパートナーにNOTTV内蔵を要請しており、夏以降のモデルではかなり多くのNOTTV内蔵端末が登場してくる見込みだ。

 では、こうしたモニター機と端末ラインアップがそろえば、あとは順調に普及するのか?……というと、実は他の面でもまだ”こなれていない”部分が多い。簡単にいえば準備不足でNOTTVとは何か? をmmbi自身が示し切れていない(どう番組を面白くするのか、蓄積型コンテンツをどう生かすのかなどを、コンテンツ企画に落とし込めていない)という印象だ。目玉であるはずのTwitter連動が、まだ使いにくかったり、番組との連動性が低かったり、あるいは端末側の実装として使いにくい面など、経験を経てでなければ改善できないところも多い。このあたりはまだ時間が必要だろう。同じことは、シフトタイム再生と彼らが読んでいる蓄積型コンテンツの使い方にもいえる。どう使えばオーディエンスが喜ぶかを、探り切れていないのだろう。

 ただ、放送免許はすでに発行されている。ダメだダメだと言って活用の方向を見失うばかりでは、誰にとっても利益がない。黙っていても内蔵端末は増えていく。これをどう活用すべきか、という方向に考えを切り替えた方がいいように思う(次回へ続く)。

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