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薄型テレビ購入ガイド、大画面は“4Kを生かす新しいシカケ”に注目本田雅一のTV Style

» 2013年07月08日 20時17分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 さて、この夏商戦に発売された各社テレビの話題をサイズごとに振り返ってきて、次は50インチから60インチクラス……と思ったが、50インチ以上は同一シリーズがラインアップされていることも多いため、ここは細かく分けずに50インチ以上、上限なしで話を進めたい。

ソニーの「KDL-65X9200A」(左)と東芝「84Z8X」(右)

 50インチ以上の話題といえば、なんといっても高解像度の4Kパネルを採用した製品が投入されたことだ。4Kパネルの導入についはコンテンツがないなど否定的な意見も見かけるが、筆者は賛成の立場だ。とくに”液晶テレビ”という枠組みでいうならば、高付加価値モデルは4Kパネル採用でなければ成り立たなくなっていくだろう。

 例えば、従来のHDテレシネでデジタイズした映画やフィルムスキャンであってもフィルムフォーマットが小さいもの、HDカメラで撮影された映像が収録されたBlu-ray Disc、あるいは解像度も圧縮品質もはるかに低い地上デジタル放送でも、優秀な超解像技術は4KパネルというフルHDよりも精細度の高いキャンバスに、それなりに良い絵を描くようになってきている(超解像にもいろいろあるので、必ずしも全てが良いわけではないが)。

 さらに、最近の4K以上のカメラやラージフォーマットからのフィルムスキャン制作された作品(高画質作品)などは、もともとフルHDを大きく超える情報量があるマスターから、折り返しノイズが出るギリギリのところまで生かせるよう縮小フィルターを工夫して収録している。こうした作品に超解像をかけると、実際にフルHDパネルでは得られない高画質を4Kパネルで得ることができる。

 さらに高解像度映像をフルHDに縮小した映像の特性(より高周波成分まで残っている)であることを意識して超解像を行うと、さらに画質は高まる。一般的なHD放送あるいはHD映画用の超解像よりも、一段高い解像度の映像を想定して超解像処理の調整を行うわけだ。これを実際に製品の機能として適用しているのがソニーと東芝だ。

超解像技術に新しいシカケ

 ソニーの「X9200Aシリーズ」は、磁性流体支持コーンの高音質なスピーカーを搭載したこと(今回は簡単に済ませるが、内蔵アンプ回路のチューニングまで含めてきちんと対策が取られており、昨今の薄型テレビの中では極めて珍しい音質を実現している)や、“Triluminous display”(トリルミナスディスプレイ)による広色域表示が話題だ。しかし、実は超解像処理の「X-Reality Pro」にも新しい仕掛けが盛り込まれている。

「X9200Aシリーズ」のスピーカー。今回は簡単に済ませるが、80ミリ径のウーファーに磁性流体が採用され、ボイスコイルを支えるダンパーを排除することで、音質面へのマイナス要素を排除した

 ソニーは、「Mastered in 4K」というブランドで、グループ会社のソニー・ピクチャーズに高精細かつ広色域のBDソフトを提供している。広色域はx.v.Colorという以前からある仕組みを使うのだが、それとは別に超解像の動作設定にも「Mastered in 4Kモード」が用意されている。これは超解像処理を行う際の評価用画像データベースを、ソニー・ピクチャーズが4K作品をフルHDに落とす際の縮小フィルター特性に合わせて作っているモードだ。設定を変更すると、参照データベースがまるごと切り替わる。

「Mastered in 4K」BDソフトの例。7月末までに「X9200Aシリーズ」を購入して製品登録を行うと、10タイトルがプレゼントされる

 その効果はかなり具合が良いのだが、問題はMastered in 4K対応ソフトがまだ少ないこと(これは時間を経てみないと評価できない)と、ソニー・ピクチャーズ以外の作品発売が予定されていないことだ。

 しかし、そのままドンピシャに想定する縮小フィルターの特性が同じでなくとも、より高精細な映像をフルHDに収めるための特性カーブは、よく似ていることが多いようだ。例えばIMAXフィルム撮影の「ダークナイト ライジング」や、70ミリフィルムを8Kデジタルスキャンでデジタイズ・編集した「Samsara」という映像作品を上記モードで観ると、フルHDとは思えない、柔らかく素直な、強調感のない映像が楽しめる。

 東芝も4Kレグザの「Z8Xシリーズ」に「高解像度シネマ」という映像モードを用意した。これも基本的な考え方は同じ。従来、想定していたよりも高解像度のソフトが出てきているので、超解像処理の動作パラメーター全体を見直し、4Kカメラやラージフォーマットフィルムのスキャン作品に合わせた映像処理を行う。

 東芝はデータベース型ではなく、適応処理による超解像なので、データベースの差し替えでないが、結果として得られる効果はソニーのMastered in 4Kと同様。素直で伸びやかな映像周波数特性は、高精細で情報量が多いだけでなく、ギスギスとした輪郭の強さを感じさせない自然な画質をもたらし、奥行き感のある4Kらしい映像をBDソフトから引き出す。

4K映像をBDにダウンコンバート収録したものを再生し、超解像技術でどこまで復元できるかを試した映像。上の拡大写真(実写)で滑らかな映像が出力されていることが分かる(出典は東芝)

 このように、従来クラスの画質と、4Kカメラなどを想定したより高精細な映像で処理を変えるという方法は今後の流行になると思うが、1つ問題もある。それは、ユーザー自身が高精細な情報まで入った高画質ディスクなのか否かを判断し、モードを切り替えなければならないことだ。

 手動で切り替えなければならない時点で、すでにハードルはかなり高いのだが、その上、ソフトの見極めも必要となればマニア向けにならざるを得ない。そうした問題に対する1つの回答が、「Mastered in 4K」なのだろうが、現状程度の拡がりでは”分かりやすさ”面の解決策にはなっていない。

 理想は自動判別になるだろうが、その前にどうせマニアックなら、もっとマニアックな方向に行ってはどうだろう。例えば、画質にこだわるアニメ制作会社などと「映像レンダリングを行う際の輪郭処理をこうしてほしい」と話を合わせてもいいのではないだろうか。日本で売れているBD作品は、その多くがアニメなのだから。と、話が長くなってしまったので、この話は次回に引き継ぐことにしたい。

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