「各社横並びで、どれに乗っても同じ」「サービス競争をしていない」――そう言われてきたタクシーにも、少しずつ変化の兆しが現れている。その顕著な例が、FeliCa決済など多用な支払い方法への対応や、ポイントやクーポンなど優待サービスへの取り組みだ。都内ではiDやEdy対応のタクシーが増加したほか、航空会社系のクレジットカードで支払うとボーナスマイルを付与したり、乗車回数に応じた優待などに取り組む先進的なタクシー会社も出てきた。首都圏で見れば、徐々にではあるが、タクシーごとの“サービス格差”が生まれ始めている。
長引く原油高によるコスト増大や、料金値上げによる乗客の“タクシー離れ”など逆境が続く中で、硬直化したタクシーのビジネスやサービスは変われるのか。
今回は、中央無線グループの中で、特にサービス改善と競争促進に熱心な昭栄自動車社長の武居利春氏にインタビュー。Edyの導入・活用から、タクシー業界が抱える課題と、将来への展望について話を聞いた。
昭栄自動車は以前から新しい技術の導入に熱心だ。同社は、中央無線グループの一員としていち早くEdy対応をしたことで注目を集めたが(参照記事)、それ以前にもオンライン方式のクレジットカード決済システムを日本で初めて導入している。
「タクシーでは昔から、『小銭がないときに乗りにくい』『一万円札は出しづらい』というお客様の声がありました。そこでクレジットカードへの対応をいち早くすることで、お客様の利便性向上を図ろうと考えたのです」
昭栄自動車によると、タクシーの乗車1回あたりの平均利用額は1200〜1300円だという。現金だと高額紙幣が使いにくい、小銭のやりとりが面倒というの声が上がるのも当然だろう。
「我々は早くからクレジットカード対応をしたわけですが、オンライン式は無線で認証するため、どうしても決済完了までに時間がかかる。また無線の圏外では認証できず、クレジットカードを使えない場合もありました。キャッシュレス化の利便性をさらに向上することを考えると、(利用時にオンライン認証をしないEdyなど)電子マネーへの対応は必然的なものだったのです」
中央無線グループがEdyを採用したのは2006年。しかし昭栄自動車では、中央無線がEdyに対応する前から、独自にEdy導入を進めた。その手始めとなったのが、2003年に始めた空港乗り合いタクシーだ。
「昭栄自動車では全日空(ANA)と独自にマイレージ契約をさせていただくなど、ANAとの連携に力を入れてきたのですが、その中の1つとして(空港乗り合いタクシー)の『ANAあいのりサービス』を提供させていただきました。ここで初めて、Edy対応をしたのです」
ANAあいのりサービスとは、空港から同一方向の乗客が乗り合いで利用するタクシーサービスであり、料金は距離加算ではなく定額になる。リムジンバスとの違いは、タクシーなので「自宅まで送迎させていただく」ところにある。昭栄自動車では、このANAあいのりサービスを3年間実施していたが、現在は採算性の課題から撤退してしまったという。
「すでに撤退しましたが、ANAあいのりサービスはお客様には大変好評なサービスでして、ここで『ジャンボ』という9人乗りのハイヤーにEdyを導入しました。
当時、私は『(ANAとの提携タクシーでも)Edyの利用率はそれほどないだろう』と思っていたのですが、ふたを開けてみるとEdyの利用率が約8割という状況でした。ANAのお客様のEdy利用率の高さに驚かされました」
むろん、この事例は、ANAユーザーの多い「空港」を基軸とするタクシーでの利用率ではある。しかし、武居氏は当時の様子を見て、タクシーの利便性向上に「電子マネーは効果がある。その効果の大きさを感じた」という。
その後、ビットワレットから中央無線グループのタクシー約2500台にEdyを大規模導入するという話があり、昭栄自動車はこれを積極的に支持したのだ。
空港の乗り合いタクシーから、街中を走る一般タクシーへ。Edy対応の車両は一気に増えたが、一方で武居氏は、空港以外でも使われるのかと、内心では半信半疑であった。
「導入当初で見ますと、1日あたりの利用件数は約500件。(導入台数が2500台なので)だいたい5台に1台で、1回は使われるという状況でした。一方で、導入前には乗務員が『操作に手間取るのではないか』と不安視しましたが、以前からクレジットカードを導入しており、それよりも電子マネーの方が決済処理が簡単だということで、そちら(乗務員のリテラシー)の問題はあまりありませんでした」
街中では、空港ほど効率よくEdyに慣れたANAユーザーには出会えない。そのため導入初期の利用は少なかったが、その後は順調に利用件数が増えてきている。この背景には「他社でもiD採用が始まるなど、『東京のタクシーでは電子マネーが使える』というイメージが広がった影響も大きい」という。2006年から2007年は首都圏で電子マネー加盟店が一気に拡大した時期でもあり、“電子マネー”がヒット商品大賞に選ばれるなど注目度が増した時期でもある。利用率は徐々に増えてきているという。
「Edyの利用促進で見ますと、2007年に開始した『Edyハッピー優待』が効果を上げてきています。このサービスの開始後、利用件数の増加ペースが上がり、今では1日に800件以上のEdy利用があります。また(中央無線での)Edy利用者の平均単価は1500〜1600円と、全体の平均単価よりやや高めの傾向になっています」
中央無線が導入したEdyハッピー優待では、1カ月に4回以上、中央無線タクシーでEdyを使うと500円分のEdyギフトを還元するものだ。これは初乗り運賃での利用でも1回とカウントされるため、お得感は高い。
「タクシーでのFeliCa対応は、東京無線とチェッカーがiDを大規模導入し、(国際自動車と日本交通で)Suica対応のタクシーも走り始めるなど、首都圏で見れば電子マネー対応は広がってきています。そうなりますと、単にEdyに対応しているだけでは、(中央無線の)サービスの差、優位性となる部分がなくなってしまう。Edyハッピー優待の活用は、タクシーの電子マネー対応が進む中で、他社との差別化の要素として重要です」
他社との差別化要素として中央無線が導入したEdyハッピー優待は、利用者のメリットがあり、利用促進の手応えは見え始めている。しかし、武居氏は「お客様に対する認知が、まだ十分ではない」と感じているという。その根拠はEdyハッピー優待が成立する「乗車4回」の達成率だ。
「Edyハッピー優待が成立する1カ月を乗車4回に達成しているお客様は、(Edy利用者の)約10%です。1カ月に3回乗車する方が多くて、雨が降ったときなどに初乗り分だけでも乗っていただければ500円を還元させていただけるのに、と残念に思っています。ハッピー優待の仕組みをもっと知っていただき、理解してもらわなければなりません」
いち早くオンライン方式のクレジットカードに対応し、意欲的にEdyへの対応や料金優待の仕組みも導入する。昭栄自動車がサービス改善に熱心な背景には、「タクシー会社は、お客様に選んで乗っていただくことを重視しなければならない」という強い危機感がある。
「タクシー会社の営業努力や競争といいますと、昔は『企業のタクシーチケット』契約をいかに取るか、というところに集中していました。むろん、この部分は今も大事ですが、実際のところは新規の法人顧客を獲得するのは難しい。今後は、一般ユーザーである『非チケットのお客様』にお乗りいただく。中央無線だからと、選んでいただけるようにしなければならないのです」
企業向けのタクシーチケットをめぐっては、新規法人顧客の開拓が難しくなっているだけではなく、経費節減や社員の無駄遣いを防ぐという観点から、利用を抑制する傾向が強くなってきている。今後のタクシー会社にとって、一般ユーザーに対していかにサービスを差別化していくかが重要だと、武居氏は力説する。
「どのタクシーに乗っても同じではなく、中央無線のタクシーにお乗りいただければ、お客様にメリットがあるサービス環境を作らなければなりません。そこでどういう(サービス)戦略であるかと言いますと、中央無線はANAマイレージクラブのショッピングアルファ加盟店でもありますので、ANAカードのご利用に対して100円=1マイルでマイル加算があります。さらに今回のEdyハッピー優待では、Edyマイルだけでなく、利用回数に応じたEdyギフトの還元も用意しました。長距離乗車で多いクレジットカードの利用と、現金の代わりとなる電子マネー利用のどちらにもお得感がでるように工夫しています」
このように中央無線では、「選ばれるタクシー」になることを今後のビジネスにおける重要課題に設定している。しかし、タクシー利用者の立場からすれば、流しのタクシーから選ぶのは可能だとしても、駅やホテルで列を作り、“待っているタクシー”からは特定のタクシー会社を選びづらい。
「本当は行列待ちをしているタクシーからも、お客様は選んで乗っていただいていいのですよ。目の前のタクシーではなく、2〜3台後ろのタクシーをお選びいただいてもいい。しかし、実際は、乗務員やお客様の意識、タクシー乗り場の構造などで『選びにくい』状況にあるのは確かですね。このあたりはタクシー業界全体で、選べる・選ばれるような環境にしていかなければなりません」
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