市販カーナビも“古くならない地図”になる?神尾寿の時事日想

» 2008年03月14日 19時58分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 3月5日、ソフトバンクテレコム、パイオニア、インクリメント・ピーがテレマティクスサービスのシステム開発を行うことで合意したと発表した。この3社は2007年7月から企画会社「Qプロ」を設立し、新開発の通信型カーナビとテレマティクスサービスの企画・検討を進めてきた。今回の発表は、同社を増資し、本格的な開発と商品化を目指すものだ。

実らなかった市販カーナビのテレマティクス

 過去のコラムでたびたび書いてきたとおり、今後のカーナビにおける必須機能はサーバ連携による「古くならない地図」の実現だ。新道路の開通ラッシュは今後も続き、特に東京の道路は大動脈がめまぐるしく変わる。例えば、首都高速道路中央環状線(路線番号C2)の完成は2013年、圏央道の完成予定は2015年度である。サーバ連携による地図更新は、「テレマティクス」の基本サービスとしてカーナビの必須機能になるだろう。また、サーバの地図サービスと連携したコンテンツ配信や広告ビジネスが活性化する可能性も高い。

 しかし、これらテレマティクス対応の通信型カーナビは、今のところ自動車メーカーの純正カーナビばかりというのが現状である。特にこの分野を牽引しているのが、本田技研工業の「インターナビ」とトヨタ自動車の「G-BOOKシリーズ」であり、どちらも昨年の段階から地図差分更新による“古くならない地図”を実現している。

 一方、市販カーナビメーカーは、2000年代前半にテレマティクスへの取り組みはあったものの成功せず、サーバ連携型のサービス開発では出遅れが続いている。

 例えばパイオニアは2002年、KDDIの通信モジュールを内蔵した通信型カーナビ「Air Navi」を発売し、この時点でサーバ連携による“古くならない地図”を実現していた。しかし、Air Naviは月額料金制である上に、主な付加価値であった「オンデマンドVICS」と「地図更新」に対してユーザーの理解が得られず、市場で大きく成功することはなかった。パイオニア以外にも携帯電話接続によるテレマティクスへのチャレンジはいくつかあったが、どれも市場で成功せず、市販カーナビのトレンドは「音楽CDのHD録音」や「DVD再生」、「地上デジタル放送対応」などAVN(Audio Visual Navigation:3つの機能を一体化したカーナビ)に傾倒していくことになる。

市販カーナビメーカーに焦り

 しかし、ここにきて市販カーナビの「AV機能の進化」は、“ユーザーニーズが追いつかない”という袋小路に入ってしまった。一方でカーナビの基本機能である「地図」の更新サービスの需要が高くなってきている。自動車メーカーがテレマティクスによる地図更新に注力する中で、手をこまねいたままでは「(純正カーナビとの)機能差が広がり、純正カーナビ装着率の上昇に歯止めがかからなくなる」(メーカー幹部)という焦りが出始めているのだ。

 市販カーナビメーカーがテレマティクスに乗り出す環境も、2002年前後に比べてかなり良くなっている。特にモバイル通信のインフラ部分では、携帯電話の市場競争が飽和状態となった。このためキャリア各社の中で通信モジュールの重要度が高くなり、この分野での通信料が安くなる素地ができはじめている。新規道路の開設ラッシュで、サーバ連携による「地図更新」や、高度な「渋滞情報・予測サービス」のメリットも打ち出しやすい。

 今回、市販カーナビメーカートップのパイオニアがソフトバンクと手を組み、テレマティクスに本腰をいれる姿勢を見せたことで、ほかのカーナビメーカーや自動車メーカーも、テレマティクスに積極的になる可能性が高い。今後の動向に注目である。

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