冷めやらぬ中小企業の海外進出熱、そこに落とし穴あり

» 2013年04月22日 14時22分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)

パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。


 長く続いた「超円高」をはじめとする「六重苦」の結果、国内に何とかしがみついていた中小メーカーが、この数年の間に雪崩を打つようにアジア新興国に進出を進めている。一時は中国に集中していたのが、その矛先が2012年からは一挙に東南アジアへシフトしているのは周知のとおりだ。お陰で東南アジアの工業団地の開発・運営業者(総合商社など)は商売繁盛だそうだ。

 しかし当然ながら、工業団地に入ることはスタートに過ぎず、事業の成功とは別問題だ。東南アジア進出を決断した中小企業(および融資元の金融機関)の一部に聞いた限りでは、彼らの海外進出計画には往々にして大きな疑問点が残る。その代表的な例として、(1)営業先の開拓、(2)延びるロジスティクスという2つを挙げよう。

 海外に生産設備を新たに立ち上げようというのだから、よほど需要の引きが強いのだろうと想像しがちだが、実は必ずしも需要先を確保して進出しているわけではない。「親会社(=最終製品のメーカー。資本関係はないことが大半)の工場が先に出ていってしまい、国内に留まっていても仕事が回ってこないので、(需要先を確保できていなくとも)海外に出るしかない」というコメントが意外と多いのだ。

 半ば開き直りとも取れる決断である。先行して海外進出した旧「親会社」は、現地で別のサプライヤーをすでに確保している可能性が高い。日本で長年取引をしていたからといって、現地でも仕事をくれるとは限らないのである。

 もう1つはロジスティクスの問題だ。現地で生産する部品などの納入先がすべて現地近くにある場合は問題ではない。しかし日本から海外拠点に完全に生産をシフトしたうえで、日本にいる顧客への納入がかなりの割合で残っている場合には、相当なリスクを抱えることになる。一挙に兵站が延びてその途上に抱える在庫が増え、しかもリードタイムも同様に延びるため需要変動に対応するのが難しくなる。

 さて為替相場は急に円安に変わってしまったが、中小企業の海外進出熱はそう簡単には冷めないだろう。「親会社が海外シフトしてしまった」今、待っていても仕事を確保できるわけではないからだ。しかし中小企業経営者に考えてほしいのは、みずからの強みを生かせる事業モデルをまず考えて、その戦略に合う場合に東南アジア新興国への進出をその実現手段として検討することだ。決して盲目的に「まず海外進出する」ことではない。(日沖博道)

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