過去最大の赤字から立ち直れるか――ソニーの業績修正会見を(ほぼ)完全収録(8/8 ページ)
ソニーは1月22日、2008年度連結業績見通しの修正を発表。2009年3月期の連結営業損失(米国会計基準)は2600億円と、過去最大の赤字となる見通しだ。ハワード・ストリンガー会長、中鉢良治社長、大根田伸行最高財務責任者が参加した業績修正会見の詳細を紹介する。
テレビ事業の黒字化に向けて
――かつてソニーは「液晶テレビで世界一を目指す」というターゲットがあったと思うのですが、それは今のところどうお考えでしょうか?
中鉢 「液晶テレビメーカーとして世界一を目指す」という考えに変わりはございません。ブランド力、技術力、収益性を回復して、そのポジションをとりたいと思っております。
――時期の目途としてはどのくらいをお考えですか?
中鉢 今こういう収益性で問題をはらんでおりますので、時期としては「中期経営計画通りにやるというのは困難ではないか」とは見ております。
ストリンガー 私はただトップのメーカーということではなくて、収益性の面でもトップでありたいと考えております。単にシェアだけを望むわけではありません。
――在庫水準が60日くらいと結構高い数字に御社はいつもピーク時はあるのですが、その在庫水準についてどれくらいまで削減していく方向にあるのでしょうか?
大根田 12月の売り上げが相当ダウンしてしまったということで、かなり我々から見る限り(在庫は)重いとは言わざるを得ない。先行きで見ますと相当重い。基本的にできることというのは、これから3月に向かって大幅に生産調整をしていかざるを得ないということです。通常レベルの数字まで持っていきたいと考えております。
――エレクトロニクス全体の有形固定資産が現状どれくらいあって、それがアセットライトなどの方向でどれくらいまで下がるのでしょうか?
大根田 今のところご説明申し上げているのは、来年は少なくとも30%くらい投資を削りますよとは言っていますが、それ以上の中期的なことについては、また今後検討していかなければいけないと思っています。
ただ、まったく投資がゼロになるわけではございませんので、固定資産のレベルが減価償却との関係で、ドラスティックに大きく変わるとは僕は今のところあまり考えていない。つまり3000億円レベル以上の投資がある限りにおいては、減価償却とトントンぐらいになります。もうちょっと高いレベルの投資を今期は考えておりますので、むしろ2008年で言えば固定資産比率は若干上がるかなと(思います)。その後、下がってくるのではないかと言えます。
――ソニーのエレクトロニクス事業の中で、サプライチェーンは開発・生産に対してどんな位置付けにあるのでしょうか? 開発や生産がソニーは強すぎて、サプライチェーンが事業をけん引する構造になっていないのではないでしょうか?
中鉢 私がサプライチェーンに言及したのは、主にテレビのオペレーションのところです。テレビはブラウン管CRTのオペレーションの時代に、私どもは四極体制というものを作っておりました。日本と米国、欧州、アジアの四極で生産、販売、それから一部設計という部隊を持ってサプライチェーンを完結する、というエリア完結型のサプライチェーン体制を持っていたわけです。
しかし、今液晶テレビになって、(液晶)パネル(工場)は東アジアに集中しております。この4地域におけるチューナーなどのローカル対応もしないといけないということで、かつてのサプライチェーンのシステムが整合しなくなりました。したがって今はよりセントラルなオペレーションを急ぎ展開していっております。
――液晶テレビは米国・欧州ではソニーブランドでプレミアム付き価格で売られており、しかもマーケットシェアはサムソンに次いで2番手を維持されています。量的にも価格的にも優位でありながら、利益が出ない最大の理由は何であると分析されていますか?
中鉢 いろんな要因があります。先ほどサプライチェーンのお話がありましたが、大きな理由は人件費を含めた固定費の多さと、(液晶)パネルの調達価格だと思います。
これらについては、先ほど緊急の取り組みでお話しましたように、人件費については30%の削減を目指して直ちに取り組んでいく。パネルについては極めて市場が流動的で、非常に余剰感があるわけですが、しっかり調達するようなシステムサポートも含めて、調達戦略を変えていかなければいけないと思っております。これは短期にやらなければいけないことだと思います。
それからもう1つ、中長期的には設計のプラットフォーム化を急がなければいけない。一番大事なことは、ソフトウェアの開発体制も含めた設計の体制だと思っています。これも着手は直ちに行いますが、「効果が出てくる時期はいつか」についてはもう少し精査させていただきたいと思います。
ストリンガー ソニーは「保有するコンテンツをネットワークサービスを通じてテレビに出せる」というアドバンテージを持っています。数はまだ多くありませんが、米国では成功裏に進めております。ウィル・スミス主演の映画をケーブルテレビあるいは衛星放送ではなく、直接テレビに流すということもやっています。ネットワークサービスをもっと取り込んで、持続的にこの差異化を図る必要があります。これによって利益率も確保できるはずです。ただ、そのためにはもちろんテレビそのもののコスト削減も必要です。
――会長のスピーチで「エレクトロニクスとゲームの連携強化」というお話がありましたが、具体的にどういうことを示しておられるのでしょうか?
ストリンガー もう具体的になっていますが、プレイステーションネットワークとそのほかの会社との関係、これが今加速的に強くなっているということです。ネットワークサービスのオペレーションは元々カリフォルニアでプレイステーションとは別個に行われていましたが、この事業が今はプレイステーションの長の下に置かれています。いかに統合するかということは時間を待たなければいけませんが、いわゆる物理的なパッケージではなくて、オンラインのゲームになると思います。
ネットワークのデバイスに関してもPS3とか、そして我々が作り出したプラットフォームのゲームとか、ビデオサービスとか、エンターテインメントをすべてのデバイスに提供できる可能性があるのがソニーの秘密の強さだと思います。
先週ラスベガスに行ってらっしゃった方もいたかと思いますが、我々コンベンションで非常に成功いたしました。「コンテンツとエンターテインメントとハードウェアを1つにすることによって、ほかのエレクトロニクス会社が提供できないような体験を提供する」、これが目標であり、将来であり、イノベーションということになります。PS3、プレイステーションネットワークも昨年始めましたが、これがまさに重要な製品・要素となるわけです。これによってそれがより進むということになります。
――アセットライトは戦略かもしれませんが戦略の修正でしかなくて、これで利益成長ができる類のものではないと思います。また、ネットワークにつないだからといって売り上げが上がるという保証はないと思います。今日この場では先にコア事業の定義、つまりソニーはどこに行くんだという話を先にしてから、構造改革を実施するのが本来の順番だと思います。もう少し具体的に、ソニーがどう進んでいくのかお話していただければと思います。
ストリンガー これから2カ月の間にお答えできると思います。3つの要素、エンターテインメントとコンピュータとハードウェアの関係、これが将来の鍵だと思っています。「いかにこのビジネスをそれぞれ見直して、いかに協力させるか」ということだと思います。
3年前にはこのエンターテインメントとハードウェアとの間はほとんど接触がなかったわけです。そしてコアビジネスを私ども見直して、こういったエレメントが今は交流があるという状況まで来ました。確かに今は未曾有の市場環境ですが、それぞれの会社が関係を深めていくことによってチャンスが生まれると思います。「いかに新たな収入源を、お互いのテリトリーの中で仕事をすることによって得ていくか」ということです。
さまざまなデバイスがネットワーク対応になっています。Wi-Fi対応のものもあります。インテグレーションとリレーションシップ、これがソニーを強くするということがはっきり分かってきました。もちろん皆を納得させることは困難ですが、私どもはそれができると思っています。
苦境のソニー
会場からの質問に、腕を組んで考え込んで回答することもあったストリンガー会長。ソニーの苦境が伝わってくるような姿だった。
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