Windows Phone 7.5は「Microsoftっぽくない」――日本マイクロソフト 横井氏に聞く:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
Microsoft、そして日本マイクロソフトは、Windows Phone 7.5を採用する「Windows Phone IS12T」を世界に先駆けて日本市場に投入し、第3のスクリーンであるモバイルデバイス市場での覇権争いに再度挑戦する。その意気込みと狙いを聞いた。
日本のニーズにはどこまで対応できるか
―― Windows Phone 7.5はグローバルなスマートフォン向けOSですが、日本市場との親和性を意識して開発したところなどもあるのでしょうか。
横井氏 日本語入力ですね。今回、新たに搭載したカーブフリック入力は、これに慣れたら他の方式に戻れないものだと思います。
日本語の場合、濁点などが全体の20%くらいあります。これをいかに効率よく入力するか。そこにこだわって作りました。
―― 日本語入力は、今回かなり気合いを入れて作られたのですね。
横井氏 もちろんです。Windows Phone 7.5の日本語入力は、マイクロソフトで昔からMS-IMEを作ってきた部隊が担当しています。彼らがMicrosoft OfficeやMS-IMEの開発で蓄積してきた「日本語入力のノウハウ」を徹底敵に注ぎ込んでいるのです。
―― 他社とは歴史といいますか、蓄積が違うと。
横井氏 ええ。例えば現在のMS-IMEでは変換精度を高めるために、日本語変換のパターン学習データをインターネット経由で収集・蓄積しています。これが我々のデータベースとして約3億語あります。ユーザーが「この言葉を入力したら、次はこの言葉を入力する可能性が高い」という学習データが、Microsoftには膨大にあるわけですよ。これがWindows Phone 7.5の日本語入力開発で生かされています。
カーブフリックの搭載も同じで、日本語の入力では濁点・半濁点が多い。この使い勝手が日常的な使いやすさを左右することが、我々は統計的に分かっていたのです。だから開発者が、よりスムーズに濁点を入力できるUIにこだわりました。
―― なるほど。確かに私がWindows Phone 7.5を使っていても、iPhoneに比べて賢いな、と感じたのが日本語入力でした。このあたりはMicrosoft、そして日本マイクロソフトならではの優位性、日本市場との親和性の高さと言えそうです。
他方で、今回のWindows Phone 7.5はソーシャルネットワークサービスとの統合が大きなテーマになっており、FacebookやTwitterとは高度に融合しています。しかし、その反面、mixiやGREE、アメーバピグなど日本市場で重要なSNSやソーシャルゲームとは連携ができていないわけですが、これらに対するスタンスはどのようなものになるのでしょうか。
横井氏 それら日本市場のSNSへの対応は、基本的にアプリになると考えています。SNS対応では、Windows Phone 7.5は二面性を持っていまして、他のスマートフォンと同等のことはアプリで実現できます。さらにその上のOSとの統合は、ユーザー規模と将来性で判断します。その現時点での筆頭が、FacebookとTwitterというわけです。
―― おサイフケータイ対応はいかがでしょうか。Windows Phone 7.5で採用しているシャシーデザインの考え方だと、搭載は難しそうですが。
横井氏 いいえ、そんなことはありませんよ。シャシーデザインは基本の部分なので、それに追加するハードウェアや機能を制限するものではありません。ただし、シャシーデザインで規定されている要素に影響を及ぼさないことが前提になります。
―― シャシーデザインにプラスαする付加機能としてなら、おサイフケータイ対応は問題ない、と。
横井氏 考え方としては、そうなります。しかし、その場合はOS側でサポートはいたしませんから、デバイスドライバーは別途ご用意いただく必要があります。
―― おサイフケータイ対応ということになりますと、モバイルFeliCaチップを提供するフェリカネットワークスが用意する必要がありそうですね。その上で、端末メーカーが採用するなら、Windows Phone 7.5のおサイフケータイ対応は不可能ではない。
横井氏 デバイスドライバーをどこが開発するかは分かりませんが、Microsoftや日本マイクロソフトが用意することはないですね。ただし、開発支援はさせていただく可能性はあります。
―― NFCのサポートについてはどうお考えですか。
横井氏 NFCも同じ考え方です。今のところOSサポートの予定はありません。しかし、端末メーカーが実装することを制限する考えもありません。
マルウェアが公式ストアで流通するなど、とんでもない
―― Androidスマートフォンの市場ではマルウェア問題が深刻化していますが、Windows Phone 7.5ではどのような対策を取られていくのでしょうか。
横井氏 まず基本的なことですが、アプリの審査をしっかりと行います。(アプリの流通を担う)「Marketplace」に、マルウェアが流通しないようにする。これによってスマートフォンをセキュアに保つ。これはとても大切なことです。
さらにローレベルのOSのAPIには、アプリ側からアクセスできないようになっています。OSの根幹部分に触れられるのはMicrosoftだけにすることで、マルウェアの被害を受けないようにしているのです。スマートフォンにとってマルウェア対策はとても重要ですので、OSそのものからアプリ流通の部分まで、非常に堅牢な仕組みを導入しています。
―― Androidと比較して、マルウェアの影響を受けるリスクは低い、と。
横井氏 ええ。セキュアであることは、(Androidに対する)Windows Phone 7.5の優位性だと考えています。
―― Androidの世界観は、まずソフトウェア的にオープンであることが重要視されていて、公式ストアでマルウェアが流通しても「ユーザーから申告があったら削除すればいい」というスタンスになっている。マルウェア対策も、ユーザーがアンチウイルスソフトを用意すればいいなど、かなり自己責任的な考え方です。これは古いPCの時代に近い発想ですね。
一方で、Windows Phone 7.5では、これとは考え方が異なる。リスクを抑制するため、Microsoftが積極的に安全管理をしていくということですか。
横井氏 そのとおりです。我々の考え方は、Androidとはまったく違います。例えばマルウェアが公式ストアで流通するなど、とんでもないことです。我々はセキュリティの重要性について、過去に何度も学ばされました。同じ過ちは二度と繰り返さない、というスタンスで安全性を重視しているのです。
しかし、このセキュアな環境を構築するためには、トレードオフの部分もあります。例えば、Windows Phone 7.5ではIMEは自由に入れられません。自由にIMEを選びたいというニーズがあるのは重々承知していますが、ここを公開してしまうとセキュリティの部分に穴があいてしまいます。
―― そのジレンマは、同じくセキュアな環境を構築しているAppleの「iOS」と同じですね。
横井氏 セキュアな環境とアプリ・ソフトウェアの自由度はトレードオフの関係なので、どこでバランスさせるかが難しいのです。我々としてはセキュアな環境が保たれる範囲内において、多くのアプリ・ソフトウェアが作られる環境にしていきたい。ただし、全面開放にはしません。ある程度の自由度はありつつ、多くのユーザーが安心して利用できる環境が大切だと考えています。
今までのMicrosoftとは違うユーザー体験
―― Windows Phone 7.5はプラットフォームを一新して、ある意味でスマートフォン市場に再参入をする形になったわけですが、日本のユーザーに向けてメッセージはありますでしょうか。
横井氏 Windows Phone 7.5は、Microsoftが戦略的に大きく賭けているOSです。そのために我々が持つ先進性を注ぎこみました。ですから、ユーザーの皆さんには『ぜひ触ってほしい』。今までのMicrosoftが提供してきた製品とは、まったく違うユーザー体験を実現しています。今までのMicrosoftっぽくないものです。また、他のスマートフォンと比べても、ユーザー体験は異なります。実際に触れていただければ、とても洗練されていることがお分かりいただけるでしょう。
繰り返しになりますが、是非一度、Windows Phone 7.5を体験していただきたいと思います。
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