無線LANと1X WINを切り替える「P2P型VoIP」実証実験

» 2005年07月08日 23時59分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 KDDIが「愛・地球博」向けに提供する情報端末「愛・MATE」を利用した、P2P通信の実証実験が行われる。愛・地球博会場内で実施されるもので、KDDI、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)、慶応義塾大学、名古屋工業大学、スカイリー・ネットワークス、スゥープが参加する“産学協同プロジェクト”だ。中には、“P2PでVoIP”という興味深い実験もあった。

Photo 情報端末「愛・MATE」

 実験はいずれも7月中に行われる予定。7月8日には同会場で、報道向けに内容が先行公開された。

KCCSが「P2PでVoIP」を提案

 愛・MATEは、OSにWindows Mobile 2003を搭載したモバイル端末。主に会場スタッフが携帯しており、画面上に会場地図を表示させたり、スタッフ間で落し物/迷子情報を共有したり、各パビリオンの待ち情報を表示したり……といった使い方がされている。

 しかし今回、さらなる使い道を模索するというコンセプトでP2P通信の実験が企画された(6月10日の記事参照)。慶応義塾大学が「ユーザー同士で写真ファイルを交換する」「音楽ファイルを交換する」などの使い道を提案。名古屋工業大学は「グループが情報交換し合って、宝探しをする」というアイデアを出した。

 しかしやはり面白かったのは、KCCSが提案した「VoIPパケットをP2P交換する」という実験。つまり、無線ネットワークでP2P経路を作ったIP電話サービスということだ。当日は日本広場で、SIPによる通話が行われた。

Photo 会場にたくさん用意された愛・MATE。これらがP2P通信を行う
Photo 実験に参加するスタッフたち。運営上の問題から、一般人は実験に参加せず、あくまでボランティアの学生やボーイスカウトの子供たち、スポンサー企業の社員などが実験主体となる

 実験では、複数の愛・MATE端末を介してVoIPパケットがリレー転送される。AというユーザーがDというユーザーに電話をしたいが、2人の距離が遠く離れている。このときB、Cというユーザーが物理的に2人の間にいれば、パケットがA→B→C→Dとホップしていって(マルチホップ)通話が実現するという流れだ。

 無線LANでP2P通信を実現するアプリは、KCCSが独自開発したものを利用。この上にAGEが開発したVoIPソフトウェア「AGE phone」を載せて、VoIP通話を実現していた。

 ポイントとなるのは、「管理ノード」を用意していたこと。従来のクライアント・サーバモデルがいわゆる“中央集権型”の構造をとるのと異なり、P2Pネットワークでは基本的にすべての端末が“公平な関係”になる。だがそれでは管理が難しく、管理者不在の「無法ネットワーク」になってしまう危険性もある。

 今回の実験では、特定の愛・MATE端末に管理ノードとしての役割を割り振った。この端末が京セラコミュニケーションシステムのデータセンターにつながり、通信ログなどを記録する。

 端末間の通話時間、位置情報などが記録されるが「将来的に課金などを行うことも想定している」(同社)。実は、無線P2Pネットワークの構築は通信事業者に任せ、同社としてはこの課金プラットフォームを提供したいという考えがあるようだ。

Photo 広場の数カ所にスタッフが立っている。ここに管理ノードがある
Photo 管理ノードといっても、実際はただの愛・MATE端末。外見上は同じだ
Photo PCにネットワーク構成が表示された。管理ノード同士がつながっており、その下にいくつかのノードがぶら下がっているのが分かる

 もう1つ、面白いのが無線LANと1X WINネットワークのハンドオーバーを実現しているところ。今回のP2P通信では基本的には、物理的に近い端末同士が無線LANのP2P通信を行う。しかし、周囲にノードが全く存在しない場合、端末はauの基地局に1X WINの通信を行う。

 つまり、2人のユーザーが無線LANで通話していて、P2Pネットワークから離れた瞬間に、au基地局を介在した通信モデルに切り替わる。このとき、au基地局とは1X WIN網を利用したVoIPを行っているという。

 「auの単純な通話ではない。意外と、画期的なことをやっている」(実験スタッフ)

Photo ここでは、無線LANで通話をしている。87番という管理ノードにつながっているようだ
Photo P2Pネットワークから離れてしまった。この瞬間、1X WINの通話に切り替わっている

 実際に通話してみると、正直なところ少々音質が悪かった。ある実験スタッフの女性も、苦笑しながら「音は悪いですね」と話す。これはVoIP用の帯域を12〜13Kbps程度に設定しているからで、有線のVoIPサービスが通常80Kbps程度の帯域を利用しているのに比べると、音質が悪くなるのは仕方がない。

 遅延は「1秒以下。早いときは0.2秒程度だ」(KCCS)とのことだが、確かに1秒程度遅延していると分かる場合もあった。加えて、たまにだが音声がブツブツと途切れて聞き取りにくいこともあった。

 無線LANのマルチホップ数は、最大で4ホップ程度(間に3端末が介在すること)とのこと。物理的に、通信できる距離もやや限られてくるだろう。とはいえ、全体に極めて注目すべき、革新的な実験であることは確か。端末をばらまけばすぐにネットワークを構築できる点も魅力で、災害対策としても期待できる。今回のところは、「改良の余地あり、今後に期待」――といったところだろうか。

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