示されたのは「新たな飛躍」――Appleが実現するモバイル&クラウド時代の理想像:WWDC 2011(2/3 ページ)
米国で6月6日に開催されたWorldwide Developer Conference 2011(WWDC 2011)の基調講演でAppleが明かした「OS X Lion」「iOS 5」「iCloud」は、2007年からAppleが起こしてきた革新の第2章だ。
PCフリーの実現で、iPhone/iPadは新たなステージに
そして、iOS 5である。
周知のとおり、iOS 5はiPhone・iPad・iPod touchに搭載されているOSであり、今のAppleにとって最重要のOSプラットフォームである。iOS 5はそのメジャーバージョンアップ(現在のiOSは4.3)ということで、抜本的かつ大きな進化がある。
その中でも、重要な転換ともいえるのが「PCフリー」である。これは後述するiCloudとも密接に関わっているが、iOS 5ではこれまでと異なり、Mac/PCにインストールされたiTunesとの直接連携が不要になった。購入直後の初期設定に始まり、コンテンツやアプリの購入、クラウドを利用したメールやスケジュール、写真などの管理、OSのバージョンアップまで。iCloudのアカウントさえ取得すれば、完全に単独での運用が可能になったのだ。
クラウド利用によるスマートフォンやタブレット端末の単独運用は、すでにAndroid OSでは当然になっている。「何を今さら。iOSが遅れていただけではないか」と思う読者もいるだろう。確かにこれまでのiOS端末がPCフリーやクラウドサービス活用という点で遅れていたのは事実だが、筆者は別の見方をしている。それは“道具としての完成度”である。
誤解を恐れずに言えば、スマートフォンやタブレット端末の一般コンシューマー市場において、利用の目的は「ハードウェアを使うこと」そのものではない。重要なのは、スマートフォンやタブレット端末を通じて、ユーザーが各種コミュニケーションや写真撮影などを安心かつ簡単に使い、リッチで豊富なアプリ/コンテンツを楽しめるか、である。その視点での完成度を考えた場合、初代iPhoneが登場した2007年当時の現実解は、iOS端末の母艦としてMac/PC上のiTunesを使うことを前提にすることだった。実際、この方式だったからこそ、iPhone/iPadは当初から端末内の完全なバックアップを取ることができ、大容量のゲームや映画配信といったコンテンツビジネスも早期から実現することができた。
しかし、この方式が暫定的な措置でなければならないことは、Apple自身もよく分かっていただろう。モバイル端末を取りまく環境は変わり、家庭内・街中でのWi-Fi利用環境が急速に整備され、Apple側のクラウド時代への準備もiCloudで整った。iPhone/iPadにとって重要な”道具としての完成度”と、それに対するこだわりを実現しながら、Mac/PCという母艦から切り離せる時期が来たのだ。
このPCフリーの実現によって、iPhone/iPadの市場は飛躍的に拡大するだろう。高齢者層やこれまでケータイを中心に活用してきたユーザー層など、PCを日常的に使わない人たちもiPhone/iPadが利用しやすくなるため市場の裾野が一気に広がる。この際、iCloudのアカウント取得が購入時のハードルとして考えられるが、日本をはじめとする各国のApple Storeでは「パーソナルセットアップ」という店頭でのサポート体制を強化している。ここではiPhone/iPad購入直後のユーザーに対して、Appleアカウント(今後のiCloudアカウント)の取得から初期設定までを親切丁寧に行ってくれる。iOS 5が投入される今秋以降、iPhoneとiPadはリテラシーの壁を越えて「すべての人が楽しく安心して使える」初めてのスマートフォン/タブレット端末になるだろう。
新機能を包み込むUIデザインの洗練
PCフリー以外の、iOS 5の注目ポイントも見てみよう。
iOS 5はPCフリーも含めて10の進化点が紹介されたが、筆者が特に注目したのが、新たな機能が実装されただけでなく、それがUIデザインに洗練された形で統合されていることだ。
その筆頭に来るのが、「Twitter」の標準サポートである。iOS向けには多数の優れたTwitterクライアントアプリが存在しているが、今回iOSが”OSとしてTwitterを統合”したことで、クライアントアプリによる利用とは異なるレベルでのシームレスな連携になっている。写真やマップ上の位置情報からコンテンツの情報まで、iPhoneやiPadで”今見ているもの”の情報をTwitterを通じて簡単に共有できるのだ。これはTwitterを通じた情報伝播を拡大・加速させる要素になるだろう。
また、iOS 5で新たに強化された「Notification Center」や「カメラ」機能のUIデザインも秀逸である。
特にロック画面(待受画面)の活用は気が利いており、会場でプレゼンテーションを聞きながら、筆者は思わず膝を叩いた。
例えば、「Notification Center」では、端末のロック中に通知(Notification)を受け取ると、それを項目ごとに整理してロック画面に表示。ここから直接、通知された機能にジャンプできるようになっている。またカメラ機能もロック画面に統合されており、ここからボタンを1回押すだけで、すぐに撮影モードに入ることができる。
ほかにも、単なるToDo機能を越えてコンシェルジュ的なリマインド機能を備えた「Reminders」や、メールとインスタントメッセンジャーの”いいとこどり”をして進化させたような「iMessage」など、iOS 5は機能だけでなくUIデザインの進化が著しい。UIデザインの洗練は以前からiOSがAndroidに対して持つ優位性であったが、iOS 5の投入で、さらにその差は広がることになるだろう。
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