スマートフォン本格普及の影で「タブレット時代」の胎動を感じた:ITmediaスタッフが選ぶ、2011年の“注目ケータイ&トピック”(ライター神尾編)
2010年までのスマートフォン市場はITリテラシーの高いユーザーが中心だったが、2011年には“普通のケータイユーザー”に広がった。その中で実感したのが、タブレットの可能性と次世代インフラの重要性だ。
2011年は“スマートフォンの一般普及”が始まった年だった。
昨年までスマートフォン市場の中心は「都市部在住・ITリテラシーの高いユーザー層」だったが、それが2011年の夏ごろから一転。スマートフォン普及が全国主要都市に広がり、購入層も“普通のケータイユーザー”に広がった。秋頃からは「なんとなくスマホを買う人」が増えたのも象徴的だった。筆者はこの1年、地方も含めて全国の販売現場を視察してまわったが、スマートフォンシフトの流れが確実なものになっていることを実感した。
他方で、このスマートフォン一般化の流れは、来年、多くの課題や問題を顕在化させることになるだろう。今のスマートフォンの多くは、ITリテラシーのさほど高くない「普通のケータイユーザー」が戸惑うことなく使えるほどまで洗練・完成されていない。2015年までの中期的な見方をすればスマートフォンの普及率は着実に上がるが、このまま行けば、その普及のペースはいちど踊り場に入るだろう。
スマートフォンをどのようにして“万人向け”にするか。UIデザインやサービスを洗練させて完成度を高めるか。どこまでサポート体制を充実させられるか。これらは今後の重要なテーマであり、スペック競争よりもとても大切なことである。これからのスマートフォンは、「分かる人だけ分かる・使える人だけ使える」ではダメなのである。
そのような中で、2011年に筆者が最も注目していたのは、スマートフォンではなく実はタブレット端末である。
らくらくホンユーザー、iPad 2を買う
筆者が2011年に発売された製品の中で、最も注目し、素晴らしいと評価しているのはAppleの「iPad 2」だ。誤解を恐れずに言えば、その可能性の大きさや存在の重要性は、iPhoneすら凌駕する。
なぜか。それはiPadが“iPhoneよりも万人向けのスマートデバイス”だからである。それを実感したのが、ドコモのらくらくホンユーザーがiPad 2を購入し、満足して使っている姿を取材したときだった。スマートフォンが使いこなせない層にとって、iPadはスマートデバイスの世界への「重要な入り口」になり始めている。
もちろん、筆者自身もiPad 2には満足している。
我が家には現在3台のiPad 2があり、家族みんなで使っている。iOSならではの優れたUIデザインと9.7インチのスクリーンサイズはストレスなく使えて、バッテリーが長持ちするので電池切れの心配もない。iPadは「iPad専用アプリ」が豊富なのも嬉しいところ。FaceTimeも家族でよく使っている。
しかしその一方で、今のiPad 2には不満もある。それはiPad自体があまりに快適なため、外出時にソフトバンクモバイルの3Gインフラで使うと、とたんにストレスを感じるのだ。仕方ないので、今は外出時にドコモのXiルーターと組み合わせて利用している。次期iPadは画面の高解像度化やCPU・メモリーの強化などが噂されているが、それにあわせてLTE対応にも期待したいところだ。
Xi+防水はかなり魅力的――「ARROWS Tab LTE F-01D」
タブレット端末でもう1つ、筆者が高く評価しているのが富士通製の「ARROWS Tab LTE F-01D」である。
これはタブレット用のAndroid OS「Honeycomb」を搭載したモデルであり、Xi(LTE)対応と防水仕様というのが特長。で、実際に使ってみると、iPad 2とは異なるタブレットの魅力を感じた。
その中でも特に筆者が痛感しているのが、タブレット端末における「Xiの威力」だ。Xiの高速データ通信・低遅延性能はスマートフォンでも確かに感じられる。しかしその感動は、より大画面でブラウザやYoutubeなど動画サービスを利用できるタブレットの方が大きい。筆者はARROWS TabなどドコモのXi対応タブレットを使って、iPad 2の内蔵3Gのあまりの遅さに我慢がならなくなってしまった。現在のAndroidタブレットそのものはiPad 2よりユーザー体験の完成度が低いにも関わらず、Xiの威力がその弱点をずいぶんと打ち消している。いわば、“通信インフラの強さが七難を隠す”状態である。
一方、家族に大好評なのは「防水」の部分である。お風呂で動画サービスを楽しんだり、キッチンで料理を作りながら使うといったシチュエーションで、やはり防水のメリットは大きい。特に妻はこの点を高く評価していた。
さらに細かなところでは、ARROWS Tabは手書き文字入力の機能も搭載しており、これがけっこう使い勝手がよかった。AndroidタブレットそのものにはUIデザインの分かりにくさやタブレット専用アプリが少ないといった問題点もいまだ多いが、ARROWS Tabはかなりよくできた秀作と言えるだろう。
スマートフォンでは「iPhone 4S」の強さは変わらず
スマートフォンに目を向けると、今年もやはりiPhoneの強さは相変わらずであった。
2011年に投入された「iPhone 4S」は発売時期が例年よりやや遅れたことと、先代モデルとデザインが大きく変わらなかったことに一部で落胆の声も聞かれたが、ユーザーが安心して買える環境としては、「2年かけて完成度を高めるサイクル」は理にかなっていると思う。iOS 5とiCloudの使い勝手もよく、“最も多くの人が安心して買えるスマートフォンはiPhone”という状況は変わらなかった。
逆に言えば、Androidスマートフォンはやみくもにスペック競争を繰り広げ、OSのバージョンアップと各製品のライフサイクルの計画性・調和が取れていないことが、最大のデメリットになっている。これはAndroidの成り立ちや体制を考えればいかんともしがたい面もあるが、ならばせめて、メーカーが率先して「多くの人が安心して買える」環境作りに腐心すべきだ。その第一歩は、せめて2年は満足して使えるスマートフォン作りであろう。半年かそこらで製品が陳腐化し、1年余りでOSのバージョンアップも打ち切られて進化も止まる。そのような状況では今後もiPhoneに勝てないのではないか、と思う。
来年は「次世代インフラ」が争点に
2012年を見据えると、スマートフォン/タブレットともに重要な争点が「次世代インフラ」になる。もはや現行の3G系の技術・インフラでは、今後のスマートフォン/タブレット市場を支えきれなくなっており、LTEやモバイルWiMAXといった次世代技術を用いたインフラへの移行は急務だ。ハイエンドモデルだけでなく、一般普及用のミドルモデルでも、LTEやモバイルWiMAX対応をしているかどうかが重要になるだろう。一方で、各キャリアの次世代インフラのエリア拡大競争も激しくなるだろう。そこでは面的なエリアの広さだけでなく、屋内エリアの充実やネットワーク全体の遅延の小ささなど、品質の高さも問われることになるだろう。
2012年は、キャリア・メーカーともに「本当の力」を試される年になりそうだ。
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