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SIMロック解除の義務化が開始――“6カ月ルール”の問題点と市場への影響を考える石野純也のMobile Eye(4月25日〜5月8日)

5月1日から、いよいよSIMロック解除の義務化がスタートした。今回はSIMロック解除が義務化された背景から、キャリアの施策と市場の動向までを考えていきたい。

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 5月1日から、SIMロック解除の義務化がスタートした。もともと、国内の携帯電話市場は端末と通信回線が一体となった形で提供されていた。3G時代に入り、ドコモやソフトバンク(当時Vodafone)を中心にSIMカードの採用が進んだものの、端末側にロックをかけることで、一体提供を続けていた。SIMロックは、いわば垂直統合を維持する錠のような存在だったのだ。このSIMロックにメスが入ったのが、2010年のこと。総務省は「SIMロック解除に関するガイドライン」を策定し、2011年度に発売される端末からこれが適用されるようになる。

 同じ端末を使い続けられないことが、キャリアを移る障壁になっており、競争を促進するためにはロックがない方が望ましいというのが当時挙げられていた主な理由だ。スマートフォンの台頭に伴い、各キャリアから発売される端末に差がなくなってきたことも、SIMロック解除を後押しした背景の1つ。iモード、EZweb、Yahoo!ケータイというように、各キャリアが独自のインターネット機能を作り込んで搭載してきたフィーチャーフォンとは異なり、スマートフォンの基本的な仕様はキャリアごとに大きな違いはない。むしろ、AndroidやiOSといったプラットフォームの差の方が大きいともいえるだろう。

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2010年4月に開催された、総務省の検討会。翌年からSIMロック解除が開始されるが、当時のガイドラインに強制力はなかった

ドコモ以外に広がらなかったSIMロック解除、新ガイドラインの狙いとは

 このガイドラインに従い、ドコモは原則として全機種のSIMロックを解除すると発表。現時点までに発売されたiPhone、iPadシリーズ以外の機種が、SIMロックを解除できる。手数料は3240円(税込)だ。これに対して、「需要がない」(ソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏)ことを理由に消極的な姿勢を示していたのがソフトバンクモバイル。ドコモとは異なり、全機種対応は行わなかったが、Android端末の一部でSIMロック解除を実施してきた。現時点で対応しているのは5機種で、富士通やZTE、Huawei製のスマートフォンのみ。これに対して、3Gの通信方式にCDMA 2000 1Xを採用していたKDDIは、互換性を理由にSIMロックの解除を行っていなかった。3Gの方式が異なるため、SIMロックを解除しても他社で使えず、実効性がないためだ。

photophoto ガイドラインを受け、ドコモは2011年3月11日にSIMロック解除に関する記者会見を開催した
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他社のiPhone、iPadを受け入れるため、micro SIMの発行も開始

 SIMロック解除に最も積極的だったドコモについては、「年間で11、12万件の解除があった」(NTTドコモ 代表取締役社長 加藤薫氏)といい、それなりに制度が浸透していたことがうかがえる。ただし、現行の料金プランは、2年間の継続契約が大前提で簡単には他社に移ることができない。上で挙げた通信方式に加え、各社が保有する周波数帯も異なっている。そのため、「一定期間海外に滞在する場合、(SIMロックを解除して)現地オペレーターのSIMカードを入れて使うという方が大変多い」(同)というのが現実だ。事業者間競争の促進はそれほど進まなかったが、海外渡航が多いユーザーには利便性が評価されたと見てよさそうだ。

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決算説明会でSIMロック解除の仕組みを説明する、ドコモの加藤社長

 5月1日に始まったSIMロック解除の義務化は、このガイドラインの改定を受けたものだ。ガイドラインには、「事業者は、原則として自らが販売した全ての端末についてSIMロック解除に応じるものとする」と明記された。ガイドラインが制定された当初とは通信環境が異なり、現在ではLTEが主流になりつつある。CDMA 2000 1Xを採用するKDDIの端末も、国際ローミング用にドコモやソフトバンクモバイルで使用するW-CDMAをサポートするようになった。また、スマートフォンの普及率はガイドライン制定当初よりも上がり、今では半数以上のユーザーが利用している。

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改正されたSIMロック解除に関するガイドライン。 総務省のサイトからも閲覧できる

 こうした状況の変化に加え、総務省にはもう1つの思惑もある。それが、MVNOの促進だ。MVNOで利用することが前提のSIMフリー端末も徐々に増えているが、やはり新たに端末を買い直すとなると敷居が上がってしまう。今使っている端末そのままでMVNOに移れれば、ユーザーの負担が少なくなる。かつて筆者のインタビューに応じた総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の富岡秀夫氏も次のように語っていた。

「MVNOは新しいマーケットという部分もありますが、別の事業者からの乗り換えも多いであろうと考えると、そのハードルを下げていくことが重要になります。そこには端末の問題があって、たとえばMNOからMVNOに乗り換える時に、新しい端末を買わなければいけないとなるとハードルが高くなります。MNOの場合、キャッシュバックでハードルを下げていますが、MVNOは規模が小さくそれができません。そもそも、キャッシュバックは長期利用者にとって公平な仕組みではありません。そのために、ガイドラインを改定しましたが、SIMロック解除が一般化すると、端末の面で事業者の乗り換えのハードルは下げることができます」

 現状でも、ネットワークの提供元(MNO)が用意した端末は、そこからネットワークを借りたMVNOのSIMカードでも動作する。例えば、ドコモの端末はドコモ系MVNOのSIMカードでも利用でき、テザリングなどを除けば大半の機能が使える。KDDI系のMVNOでも同じだ。ただし、これでは組み合わせが限定的になる。ドコモの端末を持つユーザーがKDDI系のMVNOに移ろうと思ったら、端末を買い直さなければならない。この自由度を上げるのが、SIMロックの解除というわけだ。

手数料が無料になるものの、一部のユーザーにとっては改悪になる恐れも

 では、改正ガイドラインに沿った各社のSIMロック解除のルールは、どのように変わったのか。もともと、SIMロック解除に対して前向きだったドコモは対象端末を拡大。5月1日以降に発売される機種は、iPhoneやiPadシリーズでもSIMロックの解除が可能になる。ガイドラインの「迅速かつ容易な方法により、無料でSIMロックの解除を行うものとする」という文言に従い、オンラインでのSIMロック解除は手数料も無料になった。フィーチャーフォンなど、一部オンラインでSIMロックが解除できない機種は、通常3240円かかるドコモショップでの手続きも無料なる。

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ドコモは、5月以降発売の機種から、手続きの方法や料金を変えている

 SIMロック解除を行ってこなかったKDDIも、ガイドラインを受け対応を始める。条件はほぼドコモと同じだが、4月に発売された「Galaxy S6 edge」も対象機種に含まれることになった。また、KDDIはオンライン上でSIMロック解除可能な端末の対応周波数を公表するなど、周知にも一定の工夫をしている様子が見受けられる。対するソフトバンクモバイルは、現時点では手続き方法の詳細を発表していない。同社によると「対象端末が出たしかるべきタイミングで公開する」といい、夏モデルの発表に合わせるものと思われる。

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KDDIも「auお客さまサポート」のページで、SIMロック解除に関する手続きの詳細を公開した

 このように義務化以前から対象端末が増え、手数料もオンラインでは無料になった一方で、4月30日までよりもユーザーの利便性が下がってしまった面もある。ドコモとKDDIともに、SIMロック解除を受けつけない期間を設定し、購入日から数えて180日未満の端末は、SIMロックの解除を行えなくなってしまった。これは、改定ガイドラインに、以下の記述があるためだ。

 「端末の割賦代金等を支払わない行為又は端末の入手のみを目的とした役務契約その他の不適切な行為を防止するために、事業者が最低限必要な期間はSIMロック解除に応じないことなど必要最小限の措置を講じることを妨げるものではない」

 ドコモの加藤社長は、180日という期間が必要なことについて、「少ないポーション(量)だが、一部のユーザーが違法とまでは言えないものの、不正に入手して他社にという転売行為が散見される。悪意のある行為を防止したい観点からそういうものが必要」と述べている。KDDIも同様に、180日という期間を設定した理由を「不正防止」としている。キャリア関係者によると、SIMロック解除が義務化されることで一般層にまで広がり、不正が増えることも念頭に置いた措置のようだ。

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ガイドラインにある「必要最小限の措置」を検討した結果、180日経過後という取り決めになったようだ

 確かにこれは改正ガイドラインに沿ってはいるが、問題点も多い。先に加藤氏が述べていたように、これまでのSIMロック解除は、主に海外渡航が多いユーザーに利用されてきた。こうした用途で使う場合、制約がむしろ増えてしまう。海外渡航を間近に控えたタイミングで機種変更してしまうと、すぐにはSIMロックを外せず、今までのように現地キャリアのSIMカードを挿して使うことができなくなる。もともとSIMロック解除を行っていたドコモのユーザーにとって、新制度は「改悪」になっているとも言えるだろう。

 不正防止の実効性という観点からも、SIMロックを解除できない期間を設ける措置には疑問が残る。端末を一括で購入し、割賦を組まなければ、そもそも不正は起こりようがない。逆に割賦で買っても、180日経過すれば残債がある状態でもSIMロックは解除できる。加藤氏が述べていたような「転売」は、6カ月間放置していればできてしまうのだ。その間、リセールバリューが下がることも考えられるが、抑止力としては極めて弱い。

 また、転売自体はSIMロックがなくても容易にできる。過去にはドコモが“投げ売り”した機種や、日本にしかない珍しい機種が、海外の非正規携帯電話ショップに並べられている様子を何度も見てきた。それも、SIMロック解除が始まる前からだ。本気で不正を防止したいのであれば、SIMロックの解除に猶予期間を設けるより、販売方法を見直す方が先だろう。今の仕組みは、正規で購入したユーザーまでをも疑っており、性悪説に傾きすぎているきらいがある。

SIMロック解除は“魔法”ではない――市場に与える影響は軽微か

 実際にSIMロック解除が始まると、キャリアの競争環境はどうなるのか。筆者は、大きな影響はないと見ている。もともと総務省が目的に挙げていた流動性の向上も、料金プランに2年契約がある現状では効果が薄いだろう。割賦で端末を購入するケースがほとんどな中で、あえて残債を一気に払って他社に移ろうとするユーザーは少ないはずだ。

 仮に他社に移ったとしても、対応周波数の違いから、通信できるエリアが狭くなるおそれもある。現に、SIMロック解除に対応したKDDIのGalaxy S6 edgeは、ドコモのLTEだと800MHz帯(Band 19)や1.5GHz帯(Band 21)に非対応。3Gも、FOMAプラスエリアと呼ばれる800MHz帯(Band VI/XIX)が使えず、地方では通信できない可能性が高い。そのような端末で、他キャリアに移ろうとするユーザーが一体どれだけいるのだろう。iPhoneのように全キャリアの主要周波数をカバーしている端末もあるが、2年契約や割賦の影響力まで合わせて考えると、効果は限定的になりそうだ。

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KDDIはサイトでSIMロック解除対応端末の、周波数帯を公開している。国内他社で使えるかどうかの参考になりそうだ

 当のMVNOからも、SIMロック解除の効果を疑問視する声が挙がっている。5月に始動したばかりのトーンモバイル 代表取締役社長 石田宏樹氏は「キャリア間の競争は促すが、大きな変化になってくるのか。すでに構造が変わっているので(影響は)それほど大きくないのではないか」と語っており、加熱するSIMロック解除への期待に違和感を覚えていることを明かした。別の大手MVNO関係者も、契約者獲得の効果は限定的になるとの見方を示す。むしろ、現場が混乱することを危惧しているようだ。

 このように見ていくと、SIMロックの解除だけで、すぐにキャリア同士の競争が激化するとは考えづらい。SIMロック解除は決してすべての問題を解決する“魔法”ではないのだ。

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