「タイプA」「通話定額」「フルMVNO」――IIJの注目トピックをじっくりと聞く:MVNOに聞く(4/4 ページ)
ここ数カ月、モバイル通信サービスで矢継ぎ早に新しい発表をしているIIJ。早くから事業を展開してきた同社が、“次の一手”を模索しているようにも見える。こうした直近のトピックについて、佐々木氏と堂前氏にじっくり語ってもらった。
フルMVNOのサービスを展開する狙い
―― 最後に、HSS/HLRを持ち、フルMVNOになるというお話をうかがえればと思います。どのような経緯で、合意に至ったのでしょうか。
佐々木氏 もともと、2014年に電気通信事業法改正の話が出たとき、「2020-ICT基盤政策特別部会」の中で包括検証をやっていました。その中で、日本通信さんが旗振り役になり、HSS/HLRの話が出ましたが、IIJとしても一定の理解と可能性の検討をし、フィジビリティスタディーを始めないといけないという意見がありました。
最初のきっかけは僕が個人的にやっていたこともあり、ドコモさんに行き、どういうことができるのかという夢物語を語るところからスタートしています。その時点では、協議ではありませんが、こちらから聞いたことは教えてもらえる信頼関係は築けていました。そうこうしているうちに少しずつ知見もたまってきて、ちょうどその頃から海外に行かせていただくようにもなり、フルMVNOの事例を見ていくうちに、ビジネスモデルも固まってきました。
例えば、3GPPのスタンダード上はどうなるのか、海外キャリアと接続するためにはどういうハードルがあるのか。こういうことを少しずつ固めていくのと同時に、ドコモさんにも、単に話を聞かせてくださいというだけでなく、やりたいのはこういうことで、実現のためにはどういう可能性が考えられるのかを深堀りしていきました。一方で海外の事業者ともお話しして、IIJがフルMVNOになったときにどういうパートナーシップを組めるのかは、両面で進めていきました。
―― 提供するのは、データ通信のみですよね。
佐々木氏 はい。音声になると、ほかのキャリアさんとの協議も入ってきます。データだけならドコモさんとわれわれだけで決められますが、音声が入ると、例えばMNPをどうするのかをKDDIさん、ソフトバンクさんと協議しなければならず、ドコモさんとわれわれだけでないことが出てきてしまいます。法制上も緊急通報をどうするのかなど、もっと広範な議論が始まってしまう。それもやればいいのですが、さらに1年、2年かかるとなると、そこまで待つべきなのか、データ通信だけでスタートした方がいいのかという判断をしなければなりません。
まずは1回データをやる。その後見えてきた課題を含め、制度上何を変えなければいけないのか、KDDIさんやソフトバンクさんとはどういう協議をしなければいけないのか。こういった問題解決は、その次の課題です。
―― 提供しないわけではないということですね。
佐々木氏 やらないわけではなく、まだ手がついていないということです。
―― 具体的なサービスイメージを教えてください。
佐々木氏 発表会でもお伝えさせていただいた通り、IoTになります。IoTの場合、今のようにドコモさんからSIMカードの供給を受け、パッケージングだけを僕らが考えるビジネスモデルでは、なかなか対応ができません。例えば、車にSIMカードを搭載したいというお客さまがいても、それが車内の温度に耐えられるようなクリアランスが必要で、そういうものも特注で作る可能性もあります。振動で外れてしまわないよう、それを回避することも考える必要があります。
また、工場のラインで1回製品検査まで行った後、再び在庫として眠らせるようなことにも対応できます。これも今だと1回オンにすると料金が発生してしまう。解約して、お客さまの手元でフタを開けたとき、再度使えるようになるビリングコントロールも必要になります。工業製品が世界に出荷されていく中で、リーズナブルな(料金での)対応もできます。もろもろ考えたとき、SIMカードを自分で作る能力や、海外事業者とアライアンスを組む能力は不可欠です。
これは今のMVNOにとってブルーオーシャンで、こういうところに先駆者として乗り込み、シェアを獲得していきたいですね。ただ、個人に向けたビジネスをおろそかにするつもりは全くありません。インフラをどんどん拡張して、個人にも使いやすいビジネスモデルが作れないかは検討していきます。例えば、海外のオペレーターさんとの協業が成り立てば、国内では国内、海外では海外のSIMカードになるようなものも出せます。
ニーズが大きいところでは、「海外留学するので解約したい」という方に対し、同じSIMカードで日本に戻ってきたときに再び契約していただければ、手数料を0円にするということもできます。軸足はIoT市場の獲得ですが、それによって広がった能力を使い、個人系のサービスをいかにやっていくかも考えています。
―― Apple SIMで選べるキャリアの選択肢にIIJが入っているというようなことも、フルMVNOなら実現できそうですね。
佐々木氏 現時点でお伺いが何かあるわけではありませんが、載せられないことはないと思っています。2020年に向け、プリペイドサービスの提供は盛り上がっていくでしょうし、複数のMVNOがそこにキャッチアップしています。空港に自販機を置くケースや、カウンターを作るケースもあります。ただ、それだけではなく、海外のSIMカードを日本で使っていただくこともできます。SIMカードが物理的に埋め込まれた状態で、IIJを選んで使っていただく。こういうことも、できるようになると思います。SIMのプロファイルだけを提供する形ですが、いろいろな未来がそこにはあります。
フルMVNOとSIMロックの関係
―― フルMVNOになると、SIMカードはIIJさんのものになるため、ドコモ端末が今のようにそのまま使えなくなります。個人向けは先になりそうですが、この点はどうお考えでしょうか。
佐々木氏 総務省のフォローアップ会合の中でも主張した通り、われわれとしては、これまでのSIMロックという制度は、キャリア(MNO)さんが運用されてきたもので、端末販売というところで彼らが設けている制約です。それに対して不当だというつもりはまったくありませんが、もっと未来に目を向けたとき、SIMロックを解除すべきというガイドラインが施行されている中で、より使いやすい形や、消費者が多様なサービスを使えるようにしてくための取り組みは続けていきたいと思っています。
特に、それでフルMVNOがほかのMVNOに対し、競争上、損をすることになるのであれば、それはおかしいのではと思います。本来、キャリア(MNO)さんのSIMロックは、それ(対MVNO)に対して中立であるべきで、フルMVNOにだけ逆風だとなれば、イノベーションを阻害することにもなります。
キャリア(MNO)さんにもSIMロックをかける自由はありますが、解除したい方が、よりフェアで、より楽に解除できることをもっと促進してもらいたい。端末が不正に持ち逃げされることは一定数あり、債権回収が難しいというのはあり、SIMロックで持ち逃げを無効化する対策がないと、キャリア(MNO)さんのビジネスモデルも成り立ちません。ただ、普通の利用を阻害しない、本当に悪い人だけが困りMVNOに乗り換えたいときは簡単にできるようにするというのが、今のガイドラインの趣旨だと思います。
取材を終えて:フルMVNOのサービスに期待
インタビューの内容は多岐にわたったが、その全てに共通しているのが、ユーザーのニーズに真摯(しんし)に応えるというIIJの姿勢だ。そのようなサービスの提供にあたって、技術的、ビジネス的なチャレンジをしているのも、同社ならでは。HSS/HLRを持ち、フルMVNOになるというのは、その集大成といえるだろう。
当初はIoTがメインターゲットで、個人のユーザーが目にすることになるのはもう少し先になりそうだが、佐々木氏が述べていたように、フルMVNOになればビジネスの広がりは確実に出てくる。今はまだその形がはっきりしない印象もあるが、Apple SIMのようなe-SIMでの接続先の1つになったり、国内と海外両方で使えるSIMカードだったりは、可能性がありそうだ。IIJがどのようなサービスを見せてくれるのかが、今から楽しみだ。
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