小寺信良のIT大作戦
「×」ボタンをタップしても消えない――「UI偽装広告」が壊すデジタル社会の常識(3/3 ページ)
なぜUI偽装型広告は有害なのか
UIを偽装する広告は、ある意味ユーザーの錯誤を利用して広告をクリックさせる。遷移先は問題のないサイトやサービスである場合もあれば、違法サイトや違法サービスである場合もある。違法サイトへ遷移するタイプは、広告とリンク先を一体で考えるならば、景品表示法での違法性は問えるだろう。
一方UIは法律ではなく、OSにおけるガイドラインだ。従ってアプリの実装として違反したものは処罰されるわけではなく、OS事業者から修正が求められ、修正されるまで公開されないだけである。このあたりは、OS事業者がアプリの審査を行っていた時代にはある程度機能していた、という話で、スマホ新法以降はまた違った問題になってくるが、ここではその話はいったん置いておく。
本稿で問題にしたいのは、UIを偽装する広告の社会的有害性についてである。例えば「×印は閉じる」、「はい」と「キャンセル」の先には違う結果が待っているといったお約束は、世界中で通用する。現在われわれが利用しているPCやスマートフォン上のこうしたUIは、長い試行錯誤や経験、失敗によって積み上げられたものだ。こうしたルールは、法規制や人命の犠牲なしに成し遂げられた数少ない成果の1つであり、開発者もユーザーも皆がこれを守ることで、コンピューティングがスムーズに成し遂げられる。
しかし広告はただの画像表示であり、コンピューティングにおけるUIではない。よってUIのガイドラインの縛りを受けない。また広告内容の表現について、OS事業者がガイドラインを設けることも筋が違う。
こうしたUIの常識を逆手にとって消費者をだます手口が主流になれば、UIの常識は常にうたがってかからなければならない状況になる。これはせっかく築き上げた世界共通ルールが崩壊する可能性を示している。「はい」と「キャンセル」の結果が同じといったことが新常識になる世界では、まともなコンピューティングは期待できない。筆者が懸念しているのは、ここである。
基本的に広告が何らかのものに偽装するということは、消費者をだますことと同義であり、その点では景品表示法上で違法と判断される可能性はある。だが消費者には通報手段がほとんどなく、被害が出てからでなければ警察や行政が動かないという現状がある。これは被害や違法状態を未然に防ぐという、法の原則から逸脱する。
われわれ消費者には自衛のために、こうした偽装広告に出会った段階で、何らかの対応ができるようなツールが必要だ。広告全部をブロックすることはその人にメリットがあるだけで、社会的なリスクである「UIの常識の崩壊」という問題は解消できない。また広告出稿システムを提供する会社に対して、ルールの厳格化・厳罰化を求める動きもあるべきだ。
UIを利用して人をだますという手段は、正当化されるべきではない。こうした社会悪である広告が野放しにならないよう、広告主、出稿システム運用者、メディア・サービス運営者、消費者がそれぞれの立場で、やれることはないのか探していく必要がある。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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