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楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(上)ネットベンチャー3.0【第6回】(3/3 ページ)

» 2006年09月01日 10時45分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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優れたプラットフォームだけが垂直統合を可能に

 GoogleもAppleと同じように垂直統合を志向している。自社で半導体設計まで行ってハードウェアから作り直し、その上で最強のプラットフォームである検索エンジン、さらにGoogle Baseなどのコミュニティーサービス、最後にはGoogle SpreadsheetsやGoogle Calendarなどのツールまでも築き上げている(関連記事1関連記事2)。このあたりの同社の思想については、梅田望夫さんのブログ『My Life Between Silicon Valley and Japan』にある『グーグルの垂直統合思想』というエントリーに詳しい。

 そもそも2002年ごろまでは、ネット業界では垂直統合モデルは否定的に見られていた。垂直統合というのはたとえば携帯電話会社が通信回線だけでなく、電話機やアプリ、コンテンツも提供したり、通信企業が光回線とプロバイダサービス、映画などのコンテンツをすべて提供するというものだ。入り口でたくさんのお客さんを集め、集まってきたお客さんにさまざまなサービスを使ってもらってカネを回収するという考え方である。要するにインフラやプラットフォーム、コンテンツなどを統合して、顧客を囲い込むということだ。初期のYahoo!BBやUSENも、ブロードバンドサービスを提供し始めた2001年ごろには垂直統合モデルを目指していた。だが特定の企業の通信インフラを利用しているユーザーにだけ、特定のコンテンツやサービスを提供するという手法はユーザーに受け入れられず、結果的には垂直統合を志向したこれら企業のほとんどは失敗した。

 ところがここに来て、Web2.0というパラダイムのもとでGoogleやApple、Amazonなどは垂直統合モデルを再び復活させようとしていて、それはかなりの部分まで成功を収めている。なぜこのモデルが成功しているのかといえば、それはGoogleやApple、Amazonが作っているプラットフォームの技術力やビジネスモデルが、他社を圧倒するほどに優れているからにほかならない。思い返せば、Yahoo!BBやUSENの提供していた通信回線というプラットフォームは所詮はコモディティー(日用品)であって、他社とも代替可能なサービスだった。垂直統合するプラットフォームとしては、あまりにも弱すぎたのだ。

楽天の垂直統合戦略

 では――と、ここで話を再び楽天に戻そう。楽天は、何を目指しているのだろうか。

 これまでの経営戦略を見る限り、楽天は明らかに自身がプラットフォームとなってさまざまなサービスを垂直統合していくことを狙っている。ポータルビジネスの進化のありさまとしてはもちろん間違っていないのだが、しかしこれを今まで述べてきたようなWeb2.0の文脈からとらえ直してみると、別の位相が見えてくる。最大の問題は、楽天のプラットフォームにどの程度の優位性があるかということだ。

 楽天のビジネスモデルを、いま一度振り返ってみよう。楽天がそもそも創業当初から中核としていた楽天市場のコンセプトは、明快だった。出店する店舗からは売り上げマージンを取らず、出店料は月額わずか5万円。仮想店舗を置くサーバーも楽天側が用意し、店舗側はパソコン1台と月額5万円の固定料金さえあれば、簡単に店を出すことができた。これは当初は安い値段で普及を狙い、市場を制覇した段階で従量制へとシフトしていくというニューエコノミーの収穫逓増法則を忠実に反映させたモデルだろう。

 楽天が設立された1990年代半ばは、ショッピングモールへの出店料は数十万円が相場だった。おまけにどのショッピングモールも大企業が対象で、中小企業相手に細やかな出店サポートをしてくれるところなどどこにもなかった。三井物産が立ち上げた「キュリオシティ」(その後ヤフーに買収)などは、そうしたレガシー型ショッピングモールの代表的存在だったといえる。

 そんな中で楽天の打ち出した5万円の低価格と、ていねいなサポートは衝撃的で、この価格とサービスが、全国への販路を持っていない中小企業を魅了したのである。複雑な流通を経由せず、地方の地場産業と消費者を直接結びつけることができるといインターネットの最大のパワーであるとされた「中抜き」が、5万円という低価格サービスと結びつき、一気に楽天のビジネスを拡大することになった。そして98年末にはわずか約320店だった出店数は、現在では5万5000近くにまで達した。楽天のこの10年は、驚異的な成長の10年だったのだ。そしてごく最近まで、ネットリテラシーの低い中小企業にとっては楽天の出店サポートとモールとしての集客力は圧倒的で、十分に魅力のあるプラットフォームだったのである。

 ところがここに来て、状況は大きく変わってきた。検索エンジンの登場と、そのプラットフォーム化である。以下、次号

(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)など。


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