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「経営も研究も極限を目指せ」――古川亨氏と夏野剛氏SFC ORF2008 Pre Report

» 2008年11月21日 08時30分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 慶應義塾大学SFC研究所は、研究成果を披露する「SFC Open Research Forum 2008(ORF2008)」を11月21、22日に開催する。今年のテーマは「clash of eXtreams」。極端なるものが出会い、ぶつかりながら、新たなものの創出の可能性を探ることをコンセプトに、セッションや展示が行われる。

 開催を控えた11月20日には、前マイクロソフト日本法人会長で現在、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の古川亨教授と、元NTTドコモで同大学院政策・メディア研究科の夏野剛特別招聘教授によるオープニングセッションが開催。両氏は「エクストリーム(極限、極端)」をテーマに議論を交わした。

経営にも、研究にも極限が必要

 夏野剛特別招聘教授 「講演と違って講義の準備が大変。給料も安い」と教授になった感想を語る夏野氏に会場が沸いた

 モデレーターを務めた同大学SFC研究所長、総合政策学部の國領二郎教授は「研究活動において、平均ではなくエクストリームにこそ発見や真理があると考えている」と切り出し、clash of eXtreamsを今年のコンセプトに据えた理由を説明した。

 これに対し、「インターネットが誕生してから20年が経ち、世の中の動きはどんどん速くなっている。今回の金融危機では、極端なことが起こった場合の対策を考えていなかった企業が倒産していったのではないか」と企業経営の現状を述懐したのは夏野氏だ。「技術の進化が早まる今、ユーザーの平均値を取ってサービスを提供するのではなく、企業が限界値で何をできるかを考えなければならない」と述べ、極限を見越した企業経営が必要だと自説を展開した。


 古川亨教授 古川氏は「“最近の若い者は”と遠くから見ていたが、ピカピカに光る学生がたくさんいた」と学生への率直な感想

 「会社のしがらみを背負っていたら、自分自身を社会の中でアピールする場合の足かせになっていたかもしれない」と明かしたのは古川氏。慶應義塾大学では、原点に戻って自分のやりたいことができる場を得たという。自身の大学での役割を「組織や研究所内でくすぶっている人達が抱えるエクストリームと、社会や企業を結び付ける橋渡し」と述べ、経営のノウハウを研究活動にも生かしていく考えを示した。

 同氏によると、スタンフォード大学は、知的財産関連の売り上げが年間で213億円に上る一方、慶應義塾大学はわずか7000万円しかないという。こうした資産を社会で活用して、人々にその恩恵を伝えることを考える必要があるとして、「研究開発や保有する知財の質は、スタンフォードにも負けていない。1年ごとに知財の売り上げを倍にすることも可能」と語った。

教授としての役割

 セッションでは、両氏が教授として学生と接した体験談を披露する場面も。古川氏は学生と対面した最初に「教えることは何もない」と伝えた上で、やりたいことがあれば達成するための人脈や技術を紹介するという立場を取った。「学生が自分から化学反応を起こさないといけない。わたしはそのための触媒でしかない」(古川氏)ことを教えた。

 夏野氏は、講義を受けている1年生が1990年生まれだったというエピソードを取り上げた。その学生が小学生だった1997年は携帯電話が大ブレークし、中学生だった2003年はi-modeや携帯メールが普及したころ――とこれまで携わってきた携帯電話ビジネスを振り返り、今年入学した学生を「携帯電話やPCを水のように当たり前に使っている世代」と表現。

 「こうした世代は、同じ会社に勤め続けるといった考えは持っていない。(考えの)平均が存在しない混沌とした中で、それをありのままに受け入れて楽しくやっている」と夏野氏は述べ、自分たちがこれまでの常識を超えていく必要があるという見方を示した。

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