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ネット時代の著作権、利害離れて議論を 「基本問題小委員会」スタート

» 2009年04月20日 20時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 ネット時代の著作権について文化政策の視点から議論することを目的にした、文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権分科会の「基本問題小委員会」の第1回会合が、4月20日に開かれた。

 私的録音録画補償金や、著作権保護期間延長問題、フェアユース規定導入の是非など、著作権法にまつわる未解決の課題の解決に向け、文化論や文化政策などの観点で幅広く議論する。

 法改正に向けた検討というよりは、「大所高所からの議論」(文化庁)で、ネット時代の著作権のあり方を問い直す。具体的なテーマや結論を出す時期などは決まっておらず、「この会議でいったい何を求めているのかはっきりさせてほしい」と、文化庁に苦言を呈する委員もいた。

 委員は、作詞家で日本音楽著作権協会理事のいではくさん、作家で日本文芸家協会副理事長の三田誠広さん、漫画家の里中満智子さん、慶応義塾大学の中村伊知哉教授、主婦連合会常任理事の河村真紀子さん、弁護士の宮川美津子さんなど17人。権利者と学者がメインだ。主査は野村豊弘学習院大学法学部教授。

 「録音録画小委員会」を引き継ぐような形で設置されたが、委員は著作権分科会の委員から選出したため、小委員会の委員だったIT・音楽ジャーナリストの津田大介さんや電子情報技術産業協会(JEITA)などは参加していない。私的録音録画補償金については別途、懇談会を開いて利害調整する予定だ。

Googleブック検索は「ヤクザ」? 権利者側、利用者や企業を批判

 会議では、各委員が著作権に関する意見を述べた。委員会の方向性が定まっていないこともあり、話す内容はばらばら。権利者側がネットや技術に強い不信感をあらわにするシーンもあった。

 例えば、いではくさんが、「私的複製が既得権のように当たり前になるのは危険。人のものを黙って使ってはいけないという人間の基本が尊重すべき」と主張したほか、三田さんが「Googleが書籍をデジタル化し、作家側に訴えられた件は、日本で例えれば、ヤクザが海賊版DVDを作って販売する直前に摘発されたようなもの」と話すなど、利用者やネット企業を強く批判する意見が出た。

 フェアユースやいわゆる「ネット法」についても、一様に否定的な意見が出た。「フェアユースは著作権法を骨抜きにする」(三田さん)、「流通のためだけに権利制限するのは危険」(日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一さん)、「コンテンツの2次利用でネットのみを特別扱いするのは不公平」(日本民間放送連盟専務理事の玉川寿夫さん)といった内容だ。

 私的録音録画補償金や著作権法保護期間についても、権利者側の委員から「課金対象を広げるべき」「保護期間は利用者ではなく権利者が決めるべき」といった意見が挙がり、河村さんが、「補償金が文化を支えているという考え方はおかしいのでは」と反論するシーンもあった。

 著作権法について、文化の観点から議論すべきという意見も多かった。「著作物を“財”として流通を語るだけでなく、これまであまり議論されていなかった、文化的な観点からの議論が必要では」(瀬尾さん)、「経済産業省などからの圧力もあるだろうが、文化庁は、何を守るべきかを議論すべきだろう」(三田さん)などだ。

立場や利害を超えた議論を

 その一方で、「権利者や利用者という立場を離れ、次元を変えた議論が必要では」(国立科学博物館長・元文化庁長官の佐々木正峰さん)という意見も挙がった。

 著作権法そのものの議論だけでなく、実態面からのアプローチが必要という指摘もあった。中村教授は「マーケットやユーザーが何をどう作り、ビジネスがどう動いているかを見る必要がある」と話し、例えば、実演家団体が設置を計画している、テレビ番組の2次利用に伴う出演者の権利処理の窓口が実現すれば、ネット法は不要になるかもしれないと述べた。

 三田さんも、権利者団体が開設した、著作者検索ポータルサイトを紹介し、著作物の円滑な利用を推進すべく、権利者側も努力していると話した上で、「利害対立するとかたくなになってしまう。個別の利害を離れた議論をしていきたい」と述べた。

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