米AT&Tの10月5日の方針転換は一種のジレンマをもたらすものだ。
これまでiPhone用のVoIP(Voice over IP)アプリケーションは、Wi-Fi上でのみ利用可能だったが、AT&TはiPhone用VoIPアプリケーションを自社のワイヤレスネットワークで利用できるようにすると発表した。
A&T Mobility & Consumer Marketsのラルフ・デラ・ベガ社長兼CEOは「iPhoneは革新的なデバイスであり、わずか2年前に登場してワイヤレス市場の様相を一変させた」と発表文で述べている。「本日の決定は、当社の顧客の期待、ならびに当社が提供している多数のデバイスと比較した場合のiPhoneの利用形態の調査に基づいて行ったものだ」
しかしAT&Tでは、同社が独占提供しているiPhoneのユーザーから生み出される膨大なトラフィックを処理するのに苦労しており、通信速度が遅く回線が頻繁に切断するという批判にさらされている。VoIP利用に関する決定が一部の顧客を喜ばせるのは確かだが、それ以外の顧客にとってはトラブルがさらに深刻化する恐れもある。
米Technology Business Researchのアナリスト、ケン・ハイヤーズ氏によると、今回の決定には、FCC(米連邦通信委員会)ににらまれるのを避けたいという思惑が絡んでいるようだという。
ハイヤーズ氏は「これはAT&Tにとって、それほど重要な問題ではなかったと思う。確かなことはいえないが、AT&TよりもAppleにとって重要な問題だったようだ」と米eWEEKの取材で語った。
今回の決定は、米Skypeにも恩恵をもたらす。同社は3月31日、iPhoneと第2世代のiPod touchでSkype通話とIM(インスタントメッセージング)を可能にする無償のアプリケーションを提供すると発表した(iPod touchでは対応ヘッドセットとマイクが必要)。このアプリケーションは、わずか2日間で100万以上のダウンロードがあった。しかしAT&Tは、自社の売り上げに影響が及ぶのを恐れ、3Gネットワーク上で同アプリケーションを利用できないようにした。
Skypeのジョシュ・シルバーマン社長は「Skypeなどのインターネット電話アプリケーションに3Gネットワークを開放するとした本日のAT&Tの発表を歓迎する。これはAT&T、Apple、何百万人ものモバイルSkypeユーザーだけでなく、インターネットそのものにも恩恵となる正しい判断だ」と10月7日付の発表文で述べている。「しかし1社の企業の積極的な行動が、オープン性を保護し、コンシューマーに恩恵をもたらす政府の政策の代わりになるわけではない。われわれはモバイルSkype通話のさらなる普及を可能にするイノベーションに期待している」
米Vonageも10月5日、「Vonage Mobile」を発表するという動きに出た。これはAppleのiTunes上で提供される無償のVoIPアプリケーションで、安価な国際通話を可能にする。iPhoneでは携帯回線またはWi-Fiネットワーク上で同アプリケーションを利用できるほか、iPod touchではWi-Fiネットワーク上、BlackBerryスマートフォンでは携帯回線で利用できる。
米Endpoint Technologiesのアナリスト、ロジャー・ケイ氏は、AT&Tはプレッシャーに屈したのだと指摘する。
「彼らは、これが良い考えだと思って決断したのではない」とケイ氏はeWEEKの取材で語った。「Appleの立場から見れば、今回の動きは自社のハードウェアの人気をさらに高めるものにほかならない。一方、AT&Tの側からすれば、収益を犠牲にしても独占販売権を維持するというのが狙いだ。AT&Tにとっては決してうれしいことではないが、こうするしかなかったのだ」
ケイ氏によると、AT&Tの決定はGoogleとの関連でも興味深いという。Googleのアプリケーション「Google Voice」はAppleのApp Storeから締め出されたことで物議を醸したが、AT&Tは「Googleは同アプリでネットワーク中立法を犯す可能性がある」とFCCに報告した。
「AppleはGoogleを恐れている。Appleの顧客の関心とお金がGoogleに向かう可能性があるからだ」とケイ氏は指摘する。「しかしAppleは妥協すべきだ。そうでないと同社のイメージダウンになるからだ。彼らのビジネスはハードウェアを売ることだ。Googleは広告で収入を得ている。両社が同じエコシステムの中で共存できないわけがない」
AT&Tのネットワークへの負荷がさらに増大するという問題に関しては、AT&Tでは以前から回線能力の増強を精力的に進めている。この作業はまだ完了していないが、「AT&TはVoIPトラフィックが増大しても、ネットワークがその負荷に耐えられると確信できる段階に達したのかもしれない」とケイ氏は分析する。
「AT&TがVoIPを受け入れざるを得なかったのと同様に、Appleも自社のプラットフォーム上でGoogleを受け入れざるを得ないだろう」とケイ氏は付け加える。「エンドユーザーはそれを願っており、全体的な流れがその方向に向かっている」
米調査会社Pund-IT Researchの主席アナリスト、チャールズ・キング氏も同意見だ。
「企業が自社の独占的利益を守ろうとするのは、よくあることだ。しかし市場の現実が自社の利害と対立するようになれば、自社の利益が二の次になるのが普通だ」とキング氏はeWEEKの取材で語った。
つまり、Google VoiceがようやくApp Storeに居場所を確保するということなのだろうか。
「そうなるかもしれないが、それはAppleの対抗策が尽きたときだ。ほかに選択肢が完全になくなるまで、彼らはGoogleへの抵抗を続けるだろう」(キング氏)
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