「あかつき」に相乗りして飛ぶ「IKAROS」も、非常に楽しい衛星だ。これは14メートル四方という大きな鏡状の帆を広げ、それに太陽光(注:太陽風ではない)が当たることで推進されるソーラーセイルの実験機。この大きさの帆だと、金星付近で0.1グラムほどの推進力が得られるそうだ。帆の向きなどを変えることで、太陽から遠ざかるだけでなく、近づく方向にも進むことができる。
太陽光で推進するというアイディア自体は、すでに「はやぶさ」など他の宇宙機でも試されて実証されているが、「IKAROS」が新しいのは、帆の展開にブーム(支柱)を使わないことと、太陽電池や光反射率変化用の液晶といった素材もつけられていることだ(このため、ソーラー電力セイルと呼んでいる)。
帆の展開はとてもユニークな方法で行われる。帆の四角に錘が取り付けられており、衛星が回転する遠心力で錘が外側へ出て行くと、それにともなって帆が引き出されるのである。
こうした展開方法を決定するために、小型の帆で何度も試行錯誤したり、シミュレーションを行ったりしたそうだ。また、JAXAでは次期目標として、50メートル四方の帆を持つセイルを木星へ飛ばすことを計画しており、大型化のためにもブームを使わない方式が必要になるという。帆は非常に薄いもので、7.5μメートル(髪の毛の太さの10分の1)の厚みしかない。筆者はサンプルを持たせてもらったが、よくサバイバルグッズで売られているアルミ蒸着のサーマルブランケットを、もっとずっと薄くしなやかにしたような感触だ。
この「IKAROS」にも、「あかつき」と同じく応援メッセージパネルが210枚搭載される。パネルは「あかつき」のそれよりは小さいもので、帆展開用の錘に取り付けられることになっている。
実は筆者は、「IKAROS」の応援メッセージにも個人でミクを仕込んでしまった(笑)。だが同じことをした人は、きっと何人もいるだろう。
この「IKAROS」は実験機であり、仮にうまくいかない実験があっても失敗ではない。「うまくいかなかった」こと自体が知見になるからだ。しかし、それでも「あかつき」と同じく成功を祈りたい。
筆者は今回初めて種子島宇宙センターを訪ねたのだが、砂浜と岩山と漁港のある海岸にロケットの発射台があって、不思議な雰囲気の場所だ。
そこにはH-II型ロケットの実物大模型もある。筆者は本物のロケットの打ち上げを何度も見た経験があるが、それにも関わらず、実物大模型のそばに寄ると「こんな物が飛ぶのは信じがたい」という思いがする。
筆者がこれまでに体験してきた事とこれから起こる事を整理すると、(1)1万4000人のメッセージが集まってミクパネルが作られ、(2)それが26万人のメッセージと合わせられ、(3)10年の歳月をかけて形になった「あかつき」に搭載され、(4)巨大なH-IIAロケットが火を吹いて飛んでいき、(5)半年かけて1億キロ離れた金星へ行き、(6)写真など観測結果を送ってくる――ということだ。どのような空想上の物語も、以上が現実に起きている事実だというすごさにはかなわないだろう。
5月18日の打ち上げの際には是非種子島を再訪し、ミクと「あかつき」「IKAROS」の旅立ちを見送りたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR