ITmedia NEWS > 社会とIT >

事実上の「非実在青少年」表現規制か──都条例改正案に批判相次ぐ「どうする!?どうなる?都条例」(1/2 ページ)

» 2010年05月19日 21時34分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 東京都の青少年育成条例改正案をめぐり、現役の漫画家や出版関係者、学者らが発言するイベント「どうする!?どうなる?都条例──非実在青少年とケータイ規制を考える」が5月17日夜、都内で開かれた。「都は販売規制だと言っているが、事実上の表現規制だ」といった批判が相次いだ。

 「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」(代表・藤本由香里 明治大学准教授、山口貴士弁護士)が主催。漫画家の竹宮惠子さん、山本直樹さんや、宮台真司 首都大学東京教授、出版社や同人誌即売会、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、谷岡郁子参院議員(民主)、都議らが出席し、改正案の問題点や現場からの報告、社会学的な考察、マスメディアによる報道のあり方までさまざまな発言があり、会場の豊島公会堂(池袋、定員800人)は満員だった。

photo Ustライブも行われた会場。ちょうど3年前には「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が開かれた

「どうする!?どうなる?都条例──非実在青少年とケータイ規制を考える」

「ゾーニングの顔をした表現規制」「社会の自立の、行政による他殺」──宮台教授


焦点の6月議会

 都が今年2月に都議会に提出した青少年育成条例の改正案では、漫画やアニメなどの登場人物のうち「18歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」と定義。非実在青少年による性交などを「みだりに性的対象として肯定的に描写」し、かつ「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもの」を不健全図書に指定できるようにした。

 これに対し「漫画・アニメに対する表現規制だ」と反対する声が高まり、里中満智子さんや永井豪さん、ちばてつやさんら漫画家も多数が反対意見を表明。携帯電話のフィルタリング強化も盛り込まれていることから、ネット企業からの反対も相次ぎ、都議会は「議論が十分ではない」として継続審議を決めた。

 改正案の審議は6月の定例議会で改めて行われる。5月18日には、都議会総務常任委で参考人招致が行われ、宮台教授ら2人が反対の立場、前田雅英首都大学東京教授ら2人が賛成の立場から意見を述べた。(TOKYO MX「都議会 性描写規制案めぐり参考人招致」)。

市民の“悪書狩り”を奨励?

 イベントはこうした状況の中、「マスコミの誤った報道もあり、情報が錯綜している。正しい情報、現場からの具体的な声を伝えるために」と企画された。藤本准教授は「賛成かではなく、この条文に問題がないのかというところに着眼点がある」と説明する。

 山口弁護士は、都が公表した改正案についてのQ&A集について、「担当者は誠実に回答しているのかもしれないが、法的拘束力はなく、担当者が変わっても後任者への拘束力もない。あくまで重要なのは条文の中身だ」と指摘する。

 改正案では、不健全図書指定に加え、非実在青少年による「性行または性行類似行為」を「みだりに性的対象として肯定的に描写」することで「青少年の性に関する健全な判断能力を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれのあるもの」(8条の2)について、出版社に対し「青少年が閲覧し、または閲覧することが適当でない旨の表示」(いわゆる「成年マーク」など)をするように「努めなければならない」としている(9条の2)。

 山口弁護士は「18歳未満に見えるキャラクターは『非実在青少年』。設定上、18歳以上であっても18歳未満に見えれば非実在青少年になる。BL(ボーイズラブ)を含め、ベッドシーンなどがあれば十分該当する。性交について『やっちまったー』などと後悔していない限りは害してしまう(苦笑)」として、「18歳未満に見えるキャラクターが性交・性交類似行為をする作品はすべてゾーニング対象になる可能性がある」と指摘する。

 加えて、山口弁護士は「都は条例の本当の意図を隠している」とみる。注目するのは「児童ポルノの根絶および青少年性的視覚描写物のまん延防止に向けた都の責務」を定めた18条の6の2だ。「青少年性的視覚描写物のまん延防止」という文言は今回の改正案で追加された。「青少年性的視覚描写物」には、「非実在青少年」が性的対象として扱われているものを含む。

 山口弁護士によると、「まん延」という語が使われている法律を探したところ、狂犬病予防法など、伝染病などの感染防止・撲滅を目指す法律だという。「なんとなく都の意図が見えてきた。青少年性的視覚描写物をなくすことが目的ではないか」

 さらに18条の6の2では、「都は、事業者および都民による児童ポルノの根絶および青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援および協力を行うように努める」としている。山口弁護士は「つまり規制推進派は、都のお墨付きを得た上で表現弾圧運動ができるということだ」と指摘し、都が直接手を下さず、いわば市民による“悪書狩り”を進めるのが本当の狙いではないかとした。

 「児童ポルノと同様に、存在してはいけないものとみなしている。よほど気骨のある出版社ではないと表現は萎縮することになる」

出版社・同人誌イベントは自主的に取り組み

 出版各社の業界団体・日本書籍出版協会の西谷隆行さんは、現行条例に基づき業界で自主規制に取り組んだ結果、不健全指定される図書は毎月2〜3種類程度にとどまっていることを紹介。「過激化している事実も、野放しになっている事実もない。強姦などの表現への対応も現行の条例で十分可能だ」として、「今以上の規制は必要ない」と話した。

 「都は『販売規制であって表現規制ではない』というが、販売規制されるものを出版社が作るだろうか」と都の見解にも納得できないとした。出版労連(日本出版労働組合連合会)からは、異議申し立ての方法がないことについて批判があった(出版労連は藤本准教授らを招き、25日に集会を開く)。

 同人誌即売会イベントの主催者らで構成する全国同人誌即売会連絡会の中村公彦さん(コミティア実行委員会代表)は、同人誌即売会はサークル(売り手)による対面販売を原則としており、同人誌の内容によっては買い手に対して年齢を確認できる身分証などを見せてもらっているなど、ゾーニングに注意を払っている現状を話した。

 改正案について同人誌ファンの関心は高く、5月の連休中に開かれた「SUPER COMIC CITY」では、アンケートに対し約2万サークルのうち7割から回答があったという。「関係者は高い意識を持って関わっている。どうして規制を増やすのか、疑問に思っている」とした。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.