改正案では、青少年のインターネット・携帯電話の利用についても規制の強化しており、事業者らにフィルタリングの強化などを求めている(都が「青少年ケータイ」推奨・フィルタリング強化 青少年育成条例改正案)。
民間で携帯向けサイトの審査を行うモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の岸原孝昌さんは、フィルタリングの強化を定めた条文が「有害ではないものもフィルタリングしかねず、デメリットが大きい」と指定する。「北野武さんの映画も該当しかねない。検閲にもなりかねない大きな問題だ」と批判。「表現の自由の問題だと思っている。青少年のためなら権利を侵してもいいということになりかねない」と話した
EMAの吉岡良平さんは、携帯電話事業者らが子ども向けにネットを安全に使うための教室を実施するなどの取り組みが、都が一定の指針を決めてしまうことで自由に行えなくなり、こうした取り組みが後退する恐れがあると指摘する。「努力しているところも、努力していないところもひとからげでは、努力しているところは萎縮してしまう」
新宿区で子育てをする漫画家の環乃夕華さんは、条例改正について個人的にネットで調べ、「東京都小学校PTA協議会」(都小P)が改正案に賛成していることを知った。子どもの学校に連絡したところ、少なくとも学校には知らされておらず、子どもの学校のPTA役員に聞いても誰も改正案のことは知らなかった。都小Pに問い合わせても返事はなかったという。
元日本テレビ記者で、小説「夏のロケット」などで知られる作家の川端裕人さんは、世田谷区でPTAに関わった経験から事情を解説する。都小Pは都内の小学校PTAの最上位団体だが、実際に都小Pに参加しているのは世田谷区など5区と檜原村、大島など4島の小学校PTA団体にとどまるという、全国的にも珍しい状態になっているという。「その意味でも、都小Pの代表者性は疑わしい」(都のPTAについて解説した川端さんのブログ記事)
小学校のPTAは各校−各ブロック−各区−都小Pというヒエラルキーを構成しており、「末端が意見を言っても届く可能性がない」。改正案についても区レベルのPTA連合に相談した形跡はなく、「形式的にやって形式的に決まっている可能性はある」とみる。
だが、行政が「保護者の声」として聞くのはこうしたPTAの上部団体の意見。上部団体の役員だけで決めたものが、賛否どちらであれ「保護者代表」の意見として採用し、主張の根拠となることについて「そこをはき違えるとモンスターと化す可能性もある」と話した。
翻訳家のダニエル兼光真さんは「まるでオーストラリアやカナダの話かと思うくらい」と改正案の厳しさを評しながら、「海外から批判がある」という“外圧”が規制強化の主張を補強していることについて、海外の声を紹介しながら考察する。
例えば「日本の性犯罪は少ない」と説明しても「女性専用車両があるくらいだから性犯罪があふれているに違いない」と反論されたり、BLなどを女性が愛好していることに対しても「日本の男性社会で抑圧された女性が現実の恋愛を回避している」と“分析”されることもあるという。
ポケットモンスターなど一部の日本製コンテンツに人気が集中し、日本の漫画・アニメ文化の全体が理解されていないことも背景にあるという。「『外圧があるから』ではなく、外圧の中身を見極めなければならない。一部が非難しているからといって全てがそうではない。日本のコンテンツを楽しんでいる人もいる」
(つづく)
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