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IT活用の復興で産業と雇用の創出――会津若松市に「福島イノベンションセンター」を設立現地レポート

» 2011年07月26日 18時27分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 福島県会津若松市と会津大学、アクセンチュアは7月26日、東日本大震災の被災地復興に向けた取り組みとして、ITを活用した産業や雇用の創出に着手すると発表した。アクセンチュアは8月1日に「福島イノベンションセンター」を開設し、会津若松市や会津大学らの取り組みを支援する。

優先課題が山積

 会津大学で行われた記者会見には、会津若松市の菅家一郎市長、会津大学の角山茂章理事長、アクセンチュアの程近智社長、福島県商工労働部の鈴木精一次長が出席し、今回の取り組みの狙いなどを説明した。

会見した会津大学の角山茂章理事長、会津若松市の菅家一郎市長、アクセンチュアの程近智社長(左から)

 菅家市長は、東日本大震災の復興の観点から雇用と産業の創出を最優先事項に挙げ、「福島県は地震と津波、原発事故、風評による4つの深刻な被害に見舞われており、一日も早く安心・安全の生活を取り戻さなければならない」と語った。同市には、東京電力福島第一原子力発電所が所在する双葉郡大熊町の住民や役場が避難しており、その生活基盤の確保が何よりも優先されるという。

 また程社長は、会津若松市への進出理由について、同地が歴史などの観光資源が豊富であることや、複数の顧客企業が進出していること、IT分野の人材を数多く輩出している会津大学の存在、水力や地熱、太陽光の発電など自然エネルギーの利用が活発に行われていることを挙げた。程氏は新婚旅行の地に会津若松を選んだというエピソードも紹介し、同市が個人的にも思い入れのある場所だと述べた。

 同社では3月11日の震災直後から被災地の復興支援のあり方を検討していたといい、その中で上述の理由から会津若松市への進出を決めたという。菅家市長は、「ITの分野で豊富な実績を持つグローバル企業から多くことを学びたい。それと同時に元気な会津、そして、福島を全世界に発信していきたい」と語っている。

 今回の取り組みの第一段として、アクセンチュアは会津大学に隣接する場所に「福島イノベンションセンター」を開設。経営やIT、官公庁などの分野を担当する5人のコンサルタントが市や大学の活動を支援する。具体的な活動内容やプロジェクトについても既に検討を開始しているという。将来的に、同社のパートナー企業や顧客企業を含めての地元産業の発展につなげたい考えだ。

アクセンチュアが開設予定の「福島イノベンションセンター」に隣接する会津大学。ITを活用した震災復興の拠点になる

 想定される事業として、菅家市長は放射能汚染への対応や自然エネルギーの活用を挙げた。「福島県産のものが安全なのか、危険なのか、それを調べるにもITの活用が不可欠だ。その他にも効率的な除染の方法をどう確立するかや、福島県民の健康を管理するためのデータベース開発、医療機関との連携にもITが重要」と話した。

 会津大学では人材育成を重点に県内各機関との連携も検討しているという。「例えば高度な医療サービスと観光が連携した産業を目指すなら、(東北新幹線が停車する)郡山市との協力が必要になるだろう。自然エネルギーの有効活用であれば、いわき市が波力発電に関する豊富なノウハウを持っている」(角山理事長)

 今回の取り組みで目標とする雇用の規模や時期などについては、これからの協議の中で詰めるとしているが、菅家市長によれば、まずは2年程度が目途になる。福島県では10月末までに県内の全ての避難所を閉鎖することにしており、避難している住民はその後、賃貸物件や仮設住宅へ入居するという。なお、仮設住宅に入居できる期間は原則として2年間。「それ以上の期間となれば、個人補償の問題にも大きく関わってくることになる。一刻も早く生活基盤を作らなくてはならない」(菅家市長)

 県商工労働部の鈴木次長は、「福島県が直面している状況から、立ち止まっているわけにはいかない。今回のような地域と企業が連携した復興への取り組みを広まることを期待している」と述べている。


今回の取材行程では郡山市を経由。到着してすぐの印象は記者が以前に訪れた3年前とあまり変わらなかったが、駅前には震災や余震で被害を受けた商店や施設が点在していた。修繕に着手できた建物はその半分ほどだろうか……。復興に向けたメッセージは至る所にあった

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