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“ロボットで自動化”に潜むリスク 全店舗でPepper導入の「はま寿司」が乗り越えた苦労とは?これからのAIの話をしよう(接客ロボット編)(4/4 ページ)

» 2018年12月12日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]
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 そうした小さいトライ&エラーを繰り返しつつ、Pepperにできることのみにフォーカスしたのが成功の秘訣かもしれません。人間がやるべきことは何か、機械にできることは何か。それを考えた上で、今度は機械に期待すること、機械ができることのバランスも考えなければいけません。自社でイメージする理想を具現化するためには、開発企業との密な連携は欠かせないでしょう。

 絶対達成したいラインを考えた際、池ノ上さんが特に意識したのが「自動化してもお客さんへの接客は捨てない」という思想。受付の自動化・機械化は接客を切り捨てるイメージもつきまといますが、池ノ上さんは「そうではありません」と否定します。

「接客とは何か」を考えた

 「私たち外食業は、自動化によって接客を捨てていいのかという葛藤がある。例えば、入店すると『いらっしゃいませ、ご自由にお座りください』と機械の声がし、商品を提供したらセルフレジで帰る――こういう無機質感をやっていいのかどうかは悩み所」

 「店舗によっては、小さい子どもがPepperと一緒に写真を撮っている。そういう光景も想像していたので、据え置き型の発券機にはしたくなかった。これは実験中の出来事だが、店を出るお客さんがPepperの頭に触りながら『ごちそうさま』と帰られた。いまのPepperはそうした行動へのリアクションはできないが、ソフトとハードが改良されてそうした受け答えができるようにしたい」

AI Pepperの頭をなでるお客さんも(YouTubeより)

 池ノ上さんは「接客はこうあるべき」という思想を持ち、「自動化」についても正しい認識をお持ちでした。機械と人間が協力して働く仕組みとして、自動化を捉えていたのです。

 「多くの人は、自動化という言葉に振り回されすぎている印象です。100%機械がやってくれるというイメージを持っているようで、社内の営業からも『Pepperが全部やってくれるから放っておけばいいんでしょ』と言われましたが、そうではありません。操作説明のマニュアルが必要で、操作をサポートするスタッフもいます。どれだけ優れたインタフェースでも、人間がフォローしないと良いものにはならない。そこまで含めてPepperによる自動化を思い描いていました」

 業務効率を追求し続けると無味乾燥になりますが、接客に手間を掛けすぎると全ての人に行き届かなくなります。どちらも大事だからこそ、その落とし所としてPepperを導入されたと聞いて納得しました。

 一時的なブームに踊らされず、冷静にPepperの導入を見極めた池ノ上さん。機械と人間の協働についてはどう考えているのでしょうか。

 池ノ上さんは「人間のスタッフが10人いたとして、瞬時の判断なら熟練した1人のスタッフがロボットに勝ることもあります。でも、残りの9人が平均以上のオペレーションをできるかどうかは怪しいですよね。そこでシステムを組んだり、人に優しいUXを作ったり、自動化を組み合わせることで、標準以上のサービス提供を実現しようと。人と機械が共存することでサービスレベルを向上できるはずです」と主張します。

取材を終えて

 機械に対して過度な期待をせず、何ができるかを見極め、不測の事態が起こる前提でシステムを設計・開発する。一見当たり前のことですが、それを守れている企業は実は多くありません。はま寿司は、さまざまな企業と連携しながら地道な構築を続けたことで、Pepperの活用に成功しました。

 Pepperに過度な期待をし、現実とはかけ離れた“夢”を持った人たちが、「思っていたより、何もできないんだな」とサジを投げました。そんな人たちは、1度はま寿司に足を運び、生き生きと働くPepperの姿を見てみるといいかもしれません。AI(人工知能)やロボットブームに沸く日本ですが、ロボットを生かすも殺すも、それは導入を考える人や企業次第です。

 そんなことを思いながらはま寿司を訪れてPepper君を見ると、心なしかその表情は生き生きとしているように見えました。

著者プロフィール:松本健太郎

株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。

著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org


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