しかし、こうした試験をどこまで実施するかはメーカー次第でもある。ティ・アール・エイの東代表は「(PSEマークは)メーカーや輸入事業者に課せられた、基準適合検査を自主的に実施し、それに合格する製品を出荷することを義務化したルールである点に注意してほしい」と話す。
例えばスマートフォンのように電波を発したり、携帯電話会社の通信回線に接続する機器の場合は、技術基準適合証明や技術基準適合認定(通称「技適」)を取得する必要がある。総務省が認定した機関が機器の検証を実施し、基準に適合していれば、「認定」「認証」を発行してくれる。いわば、公的な“お墨付き”である。
一方PSEマークは、メーカーや輸入事業者が、経産省が決めた基準にのっとった試験や検証を自主的に行い、基準を満たしていることを自ら確認すれば表示してもよいという建て付けになっている。お墨付きではなく、事業者に課された「縛り」というイメージだ。うがった見方をすれば、悪徳事業者がその気になれば「お手盛り」で試験や検査を実施したり、実施したことにすれば、PSEマークを表示することもできる――ということでもある。
ただし、「全品検査の記録は3年間の保存義務があり、製品の不具合で事故が起きた場合などの立入検査で不正が発覚したら、事業届け出の取り消しといったペナルティーがある」(アンカー・ジャパン 伊藤さん)という。
加えて電気用品安全法には「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科」という罰則規定もある。経済産業省としては、こうした罰則が不正表示に歯止めをかけるという考えなのだろう。
とはいえ、ユーザーが安全性や信頼性を推し量る術は限られている。PSEマークがあるかチェックするだけでなく、事業者がどんな試験を実施しているかをサイト等で確認した方がより安心かもしれない。
ただ、モバイルバッテリーの安全性でいうと、もう一点気になることがある。それは、現状のPSE基準が、製品の進化に追い付いていないことである。そもそも、現在の「別表第九 リチウムイオン蓄電池」という試験基準は、その名が示す通り、リチウムイオン蓄電池そのものを規制するもので、蓄電池の他に電源や各種回路で構成されている製品としてのモバイルバッテリーを律するものではない。
今後、最大100Wの給電能力をもつUSB Type-C対応のPower Delivery規格製品の増加など、モバイルバッテリーの大容量化や高密度化の流れは加速するであろう。そのような進化した製品に、現状のPSE基準は、力不足を否めない。
業界団体であるモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)では「モバイル充電安全認証」という、充電規格などの進化に対応した制度を設け、試験に合格した製品には「MCPCマーク」表示を許している。ただ、制度自体の認知度が低いためか、認定製品の数も少なく発展途上といった様相だ。
ティ・アール・エイの東代表は、モバイルバッテリーの使い方について「高いエネルギー源を持ち歩いていることを自覚し、過度な衝撃や発熱を伴う使用を行えば、常に発火の危険と隣合わせであることは意識してほしい」と警鐘を鳴らす。ユーザーとして常に頭の片隅に置いておきたいものだ。
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