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「金」を手にしたYouTubeマン 「知識の高速道路」を加速するもの新連載「動画の世紀」(2/4 ページ)

» 2019年03月12日 10時36分 公開
[小林啓倫ITmedia]

ペット動画よりも見られているもの

 ペットや動物の動画は、Webの世界で花形のひとつと言えるでしょう。可愛らしい動物の姿をとらえた映像は、いわゆる「バズる」傾向が高く、最近はテレビ局ですらそうした映像を集めて1本の番組やコーナーを製作しているほどです。

 ではここで問題。YouTube上でもこの「ペットと動物」というカテゴリーは人気なのですが、それを上回る人気を誇るYouTube上のカテゴリーとはいったい何でしょうか?

 実は最近、YouTubeのトレンド・カルチャー統括部長を務めるケヴィン・アロッカさんが書いた「YouTubeの時代」(NTT出版)という本を翻訳させていただく機会がありました。先ほどのクイズの答えは、本書の中でこう解説されています。

photo YouTubeの時代

私は誰かにこの話をする瞬間が好きなのだが、実は私たちが「教育」カテゴリーの動画を視聴するのに費やす時間は、「ペットと動物」カテゴリーに費やす時間の10倍に達している。そう、10倍だ。

 意外だったでしょうか。実はあんなにバズっているペット動画の実に10倍もの時間を、人々は教育動画の視聴に費やしている、という結果が出ているのです。またYouTube公式ページには、「YouTubeの教育関連動画の再生回数は1日で10億回を超えます」とあります。いまどき「ネット動画なんてくだらないコンテンツしかない」と思い込んでいる人は少数派でしょうが、それでもこの結果には驚かれたのではないでしょうか。

 もちろん単純に視聴時間や回数を比較しただけでは、「人々は動物のバカバカしい動画より、よりも学びの機会を得たいと思っている」と言うことはできません。例えばアロッカさん自身、こうした結果が出た一因として、教育カテゴリーには「子供や家族向けの動画が多数存在し、一部の親は、それを繰り返し子供に見せようとする」と指摘しています。また教育系コンテンツは説明を必要としますから、単に動物の可愛い一瞬をとらえた動画よりも、長い映像になる傾向があると考えられます。それも視聴時間が長くなる原因でしょう。とはいえペット動画の10倍もの時間が教育コンテンツの消費に費やされているというのは、注目に値する状況ではないでしょうか。

 棋士の羽生善治さんは2000年代の初めに、ITとインターネットの進化を、学習の「高速道路」ができたようなものと喩えました。将棋に関するさまざまなデータベースが整備され、それを誰もがネットを通じてアクセスできるようになったことで、一定のレベルに誰もが短時間で到達できるようになったことを表現したものです。こうした「高速道路」は将棋以外の分野でも整備されつつあると、当時さまざまな人が指摘しました。それから10年以上が経ち、その高速道路には「動画」というさらに速く走れる車線が登場して、そこを実際に多くの人々が走っているわけです。

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