新日本プロレスの業績が下降した2004年ごろ、若手だった棚橋選手は自分なりにその原因を分析していました。かつてはタイガーマスクさんやアントニオ猪木さんといった人気レスラーがブームをけん引していましたが、世代交代に失敗したり、過去のやり方に固執して新たなファンを獲得できなければ、いつか人気は低迷します。そんなプロレス界が置かれた状況を把握し、何をしていくべきかを常に考えていました。
棚橋選手はもともとジャーナリストを目指しており、立命館大学を卒業した経歴もあるため、地頭や文章力があります。また、学生プロレスの経験から、観客へのアピールやプロデュース力を備えていました。
しかし、スポーツや格闘技での立派な実績はなく、デビュー当初はそれほど期待されていませんでした。だからこそ、体だけでなく頭も使い、自分がプロレスラーとして輝くためにどうすればいいのかなどを分析して次の行動につなげていったのです。
会社員として奮闘する読者の場合はどうでしょう。あなたが会社を変えるためにAIが必要だと考えているなら、まずは「なぜAIが必要なのか」を分析しましょう。
AIに取り組む理由、なぜ将来AIが重要になるのか、いますぐ導入すべき理由、メリットとデメリット、費用対効果など、データや数字も含めて分析して、「なぜ?」「どうして?」を明確にします。その上で自社でAIを活用できる業務や強みを探して、分析を繰り返しましょう。
AIを開発するベンダー側はクライアント企業の業務知識に乏しく、外部からでは導入効果の見極めも難しいです。これらは会社と現場をよく知るあなただからこそできる作業といえます。最近ではAI導入のハードルも下がっており、無料で使えるAIツールやサービスも増えています。自分たちでAIを動かして学びながら、準備を進めるのも良いでしょう。
こうして分析を進めて目的や効果を明確にすることで、会社や上層部にAIが必要な根拠を作り、次の行動につなげていきます。
現状分析を行った上で、棚橋選手が取った行動はアピールすることです。プロレスは全国を巡業して試合をしますが、プロレスファンを増やすために地域の企業やコミュニティーと交流しながらプロモーション活動を続けました。
棚橋選手はブログ、Twitter、Instagram、ポッドキャストなど、ネットでの情報発信やファンとの交流も積極的に行っています。もともとジャーナリスト志望だったこともあり、文章を書くのが得意だったことも大きいでしょう。
かつては地方での試合は都市圏のビッグマッチにおける前哨戦扱いでしたが、棚橋選手は全力で試合をしました。観戦者の満足度が高ければ、リピーターが増えたり、友達や家族を連れてくるなど相乗効果を生み出します。
さらに棚橋選手は自身に興味を持ってもらうため、「愛してまーす」の決めぜりふ、仮面ライダーを模したポーズやせりふ、エアギターのパフォーマンス、「100年に1人の逸材」というキャッチコピーなど、目立って分かりやすいアピールで観客のハートをつかんでいきました。
会社員でも新しいプロジェクトを行うときには、周囲の共感を得たり、どのような利益を会社にもたらす事業なのかをアピールしたりする必要があります。
AI導入と活用について分析した結果を社内でアピールすると、賛成する人、反対する人、興味がない人と反応はさまざまでしょう。大きな組織の中では個人は弱いものですが、いろいろな社員が在籍しているのは組織の強みです。分析した結果に基づいて会社全体でどのようなメリットが得られるのかなどを根気強く説明しながら周囲を説得していき、仲間を増やしていきましょう。
大企業あるあるですが、部門間の橋渡しには担当同士のつながりが必須であり、いわゆる「筋を通す」「仁義を切る」「メンツを保つ」必要があります。「俺は聞いてない」「〇〇部門は反対している」などの理由で、プロジェクトが止まるのを防ぐためにも根回しは重要です。
AIについては「リストラで人員削減される」「予算が取られて現場にしわ寄せがくる」などの誤解もまだあります。社内でプロモーションを積極的に展開しながら人脈を構築し、決裁者に納得してもらうための道を作っていきましょう。
しかし、現状分析をしてアピールを繰り返しても、すぐには反応がなかったり、アンチや反発も出てきたりします。
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