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» 2019年03月29日 17時52分 公開

夜明け前のVRの世界に、通信キャリアが見る「5Gの夢」

国内通信キャリアが、相次いでVRのスポーツ観戦サービスを発表している。背景には、2020年の東京オリンピック・パラリンピックや、5Gの展開をにらんだ戦略がありそうだ。

[新崎幸夫,ITmedia]

 このところ、国内通信キャリアが「VR(仮想現実)でスポーツ観戦」を打ち出す事例が相次いでいる。NTTドコモは3月8日、「docomo Sports VR powered by DAZN」を発表した。VR空間の“バーチャルVIPルーム”で、マルチアングルのサッカー観戦を行うというトライアルだ。

バーチャルVIPルームのイメージ

 またソフトバンクは3月25日、VRライブ映像の配信サービス「LiVR」(ライブイアール)を発表。こちらは月額980円の商用サービスで、「福岡ヤフオク!ドーム」で行われるプロ野球公式戦64試合を配信するという。ソフトバンクはグループ会社に福岡ソフトバンクホークスを抱えていることから、同球団と密に連携したサービスにしたようだ。

「LiVR」(ライブイアール)は専用アプリを導入したスマホをVRゴーグルに装着して視聴する

 KDDIも、同様の取り組みを行っている。2018年7月に、グループ会社であるSupershipとともにVR観戦プラットフォーム「XRstadium」 (エックスアールスタジアム)を提供開始。18年は30試合以上のリーグ公式戦をライブ配信するなど、意欲的な取り組みを行っていた。

VR業界は「夜明け前」

 だが、こうした取り組みが即、収益化に直結しているかというと、どうもそうでもないようだ。あるVR業界関係者によると、「VR業界では、アダルト以外で『非常にもうかっている』という話は、あまり聞かない」

 例えば、アダルト業界の大御所といえるDMMが提供するVR事業では、事業開始から2年目にして、実に40億円の売上を叩きだしたという。VRというテクノロジーと、間近に迫る異性という組み合わせが、相性がいいことは間違いない。逆に、それ以外の分野でこのレベルの売上は上がっていない、というのが衆目の一致するところのようだ。

 KDDIのXRstadiumも、スポーツ一本では苦しいと見たのか、「VRグラビア女王LIVEオーディション」を実施。クラウドファンディングの「Makuake」で視聴チケット付きの応援プロジェクトを立ち上げ、目標金額を上回る支援を集めた。目先は、やはりグラビア・アイドルなのか——という印象も受ける。

「Makuake」のプロジェクトページ

 VHSビデオでも、インターネットでもそうだが、テクノロジーの初期に「お色気系」コンテンツが注目されるのは、世の常だ。VR業界もいわば黎明期、夜明け前の状態といってさしつかえないだろう。

 そんな中で、通信3キャリはなぜか、こぞってスポーツVR観戦へのアプローチをとっている。これには明確な理由がある。それは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックと「5G」だ。

2020年を見据えた戦略

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックは様々な業界を巻き込んだビッグイベントとなる。国内では総務省の旗振りのもと、東京オリンピック・パラリンピック開催前の5G商用化を目指しており、これに各通信キャリアが呼応している状況だ。

 うまくタイミングが合えば、「オリンピックのスポーツ中継映像を、5Gネットワークで、ダイナミックなVR映像としてお茶の間にお届けする」ことも可能だ。通信キャリアが「5Gの有効な使い方」として、オリンピックをにらみつつ、スポーツのVR撮影・配信技術を磨くというのもうなずける。

 「逆にいえば、VR以外では5Gの使い道がそれほど思いつかないという事情もある」と、前出の関係者は打ち明ける。

 大容量、低遅延をウリにする5Gだが、ユーザーにそのメリットは伝わりにくい面がある。実際のところ、例えば5Mbpsで利用していたサービスを20Mbpsの通信速度で見たところで、「YouTubeであったり、TikTokであったりを、スマホの小さな画面で見ている分には、大きな違いはない」(同)

 しかし、VRゴーグルで視野いっぱいに広がるVR映像を伝送するとなると、5Mbpsと20Mbpsでは歴然とした画質面での差が出る。また多人数同時接続のコミュニケーションなども絡めれば、「大容量で低遅延」をアピール可能だ。いわば、VRというのは「5Gであることの意味を、アピールしやすいサービス」ともいえるわけだ。

福岡ヤフオク!ドーム。スポーツを視野いっぱいに広がるVR映像で見れば、スマホの小さな画面とはまったく違う臨場感が得られるだろう

 もちろん、ユーザーが20MbpsのVRサービスなど求めていないとすれば、これは独りよがりの「過剰スペックのサービス」となる。ただし、もしそれが、かつて体験したことのないものだとすれば、ある程度の技術革新といえるかもしれない。

 通信キャリアが夜明け前のVRの世界に見る、「5Gの夢」。それがどのような結末を迎えるのか。2020年には、およその答えが出る。

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