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「クラウドファンディング」の本質とは何か(1/2 ページ)

» 2019年07月12日 07時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 7月3日、ソニーの運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」で、京セラ、ライオン、ソニーの3社が共同開発し、京セラが販売主体となる子供用歯ブラシ「Possi」のクラウドファンディングが開始された

photo 大手企業3社が共同開発しクラウドファンディング

 また、7月4日(米国時間)には、キヤノンの米国法人であるCannon USAが、大手クラウドファンディングサイト「Indiegogo」にて、クリップ型カメラ「IVY REC」のクラウドファンディングを近日中に開始する、と発表した

photo キヤノンはIndiegogoで

 これに限らず、ここ数年で、大手企業がクラウドファンディングを使う例が増えてきた。

 一方で、こんな声も聞こえる。

 「クラウドファンディングは、資本のない小さなチームのためのものではなかったのか。資金があるはずの大手企業が活用するのは趣旨にそぐわないのではないか」

 確かに、そう考えたくなる気持ちも分かる。

 だが、クラウドファンディングのあり方は大きく変容しているし、海外と日本でも使われ方が違う。

 今回は改めて、「クラウドファンディングとは何か」を考えてみたい。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年7月7日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから

クラウドファンディングはどうやって生まれたのか

 クラウドファンディングとはなにか? ここでいうクラウドとはCrowd=群集のことで、不特定多数からお金を集めて事業を達成するための手助けをするサービスのことを指す。

 そもそも、アメリカを中心にこのモデルが生まれた背景には「寄付文化」の定着がある。クラウドファンディングの起源については諸説あるが、寄付による出版や施設の建設などを挙げる例が多い。

 事業を行う場合、一般には自社資本や銀行からの借り入れ、投資家からの出資などの手段で事業資金を集める必要がある。だがWebの一般化により、ネットで告知して資金を集めることも可能になった。そのためのプラットフォームを用意し、手数料収入で運営されるプラットフォーマーが2000年代前半に登場し、その上でビジネスをする人々が出始めた。これがクラウドファンディングのプラットフォーマーだ。

 その性質上、クラウドファンディングは、当初は音楽や著作など、企画や個人の才能に対して資金提供を募るタイプのものが多かった。コンテンツ流通のデジタル化が同時期に進んでおり、既存の業界慣行に囚われる必然性が薄くなってきたことも追い風になった。今も、音楽・著述物・映像・ゲームなど、いわゆるクリエイティブコンテンツに関するクラウドファンディングは多い。

 2000年代後半になると、デジタルガジェットや衣料、カバンなど、モノとしての製品化を目的としたクラウドファンディングが増えてくる。前出のIndiegogoやKickstarterなど、スタートアップ支援の要素を備えたクラウドファンディングの隆盛だ。

 ハードウェアに関するクラウドファンディングが成立した背景には、中国を中心とした生産拠点の能力向上、物流の能力向上により、企画と生産と物流を分割し、それぞれを分業で担うことができるようになってきたことがある。結果として、大企業でなくてもユニークなハードウェアづくりができるようになり、それをアピールしつつ資金集めとプロモーションの両方ができるクラウドファンディングは注目を集めることになる。

 スタートアップの登竜門としてのクラウドファンディングの、もっとも華麗な成功例は「Oculus Rift」かもしれない。2012年にKickstarterでクラウドファンディングが開始された時には、一部の技術者やゲームファンが注目するだけの小さな存在だった。だが、出資目標の25万ドルの10倍近い、240万ドルの調達に成功すると、その可能性が大きく注目された。現在のVRは同社を軸に始まり、2014年にはFacebookによって20億ドルで買収され、さらに大きなコンシューマー向けビジネスへと発展していく。

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