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» 2019年07月12日 07時00分 公開

「クラウドファンディング」の本質とは何か(2/2 ページ)

[西田宗千佳,ITmedia]
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3つの軸を持ちつつ変容するクラウドファンディング

 だがその過程で、クラウドファンディングは変容する。スタートアップの出発点だったところに、企業が参加し始めたからだ。冒頭に述べたソニーやキヤノンの例はその一部に過ぎない。

 なぜそうなったのか? 筆者はその理由を、クラウドファンディングの本質が「出資」というよりも「評価」であったことだ、と考えている。

 クラウドファンディングと一言でいうが、一般には3つのあり方が内在している、といわれている。

 1つは「寄付」。期待するもの、世に出て欲しいものに対して、見返りを求めずに寄付する、純粋な支援としてのあり方だ。クラウドファンディングの発祥が本当に寄付行為にあったなら、これはもっとも原初的な姿といえる。

 2つめは「投資」。スタートアップ企業や開発計画に対して、個人の立場で投資し、その結果として見返りを得る、というスタイルだ。多くの人が思い浮かべるクラウドファンディングとは、この形だろう。

 だが、投資なので失敗もある。見返り=ハードウェアやコンテンツなどの成果物を手にできない場合がある。投資型クラウドファンディングがちゃんと成功する率は意外なほど低く、初期のハードウェア・クラウドファンディングを知っている人ならば「リターンがないのも当たり前」という意識を持っているのではないか。

 その結果生まれたのが3つめの「販売」型だ。募集をかけ、目標金額に到達したら、必ず製品が手に入る。利用者から見ると投資型との差が見えづらいが、実はもともと製品が出荷できる目処は立っており、一定の数を集めてビジネスを安定させることが目的だったり、そもそも、周知を高めることが目的だったりする。利用者が増えれば、投資の不安定さを問題視する声が増える。そうなると、安定的な存在である販売型が注目されることになる。

クラウドファンディングの本質は「評価」だ

 一方で筆者は、これら3つを統合する、1つの要素こそが本質だと思っている。それが先に述べた「評価」だ。そもそもの目的が「評価」であり、実際には投資でも販売でもない、というクラウドファンディングが、現在は主流になっている。

 クラウドファンディングには「投資者数」と「総投資額」という明確な指標がある。販売前の、まだ評価が定まらない製品の場合、市場の可能性を数値化するのは難しいものだ。クラウドファンディングを使うと、その「数字」が明確に分かる。これはスタートアップだけでなく、大手企業にとっても魅力的な要素だ。

 そもそも、クラウドファンディングによる「調達」だけで事業が進む例は非常に少ない。

 100万ドルの調達は、日本円にすると1億1000万円未満。1人にとっては大きな額でも、数人のチームでビジネスをするには心もとない。ハードウェアの製造やゲーム制作など、多くの人々が関わるビジネスならば、十分な予算ではない。しかも、100万ドルの調達に成功する行うクラウドファンディングはそう多くない。ほとんどはもっと少ない額しか調達できない。クラウドファンディング=ビジネス原資、というパターンは、小さなチームでコンテンツ制作を進める場合に限られる、例外的な姿になっている。

 だからこそ、ほとんどのクラウドファンディングでの成功は、評価の可視に過ぎない。「クラウドファンディングでの調達額」という客観的な指標を使って、他の投資家や企業から出資を受け、大きなビジネスを目指すのが基本路線になっている。

 クラウドファンディングには「ストレッチゴール」というものがある。出資者が増えるとその分リターンを増やします、というコミットメントなのだが、そもそも出資額がクラウドファンディングだけでは不足しているので、「ストレッチゴール」を作るための費用の捻出も大変だ。それでも多くのクラウドファンディングがストレッチゴールを設定するのは、それがクラウドファンディングで大きな出資額を得るのに有効な手段である、と皆が知っているからである。

 クラウドファンディングの本質が「評価」だとすれば、そこでスタートアップと大手を区別するのも不自然な話かと思う。

「ニーズ」と「完成度」、両方の評価があってのクラウドファンディング

 一方で、クラウドファンディングの持つ「スタートアップ感」を大手や物販系の企業がマーケティング的に利用している、という指摘はもっともなことかと思う。物販系ならば「評価型販売」に近いし、マーケット評価の調査が目的ならば「テスト販売」に近い。

 だが、クラウドファンディングがテスト販売とイコールではない。評価して購入した人々と企業の間で、より濃密なフィードバックの関係が成立しているからだ。クラウドファンディングという小さな市場に出し、そこで直接顧客からフィードバックを得ることで商品を磨き上げ、よりよい製品として大きな市場に打って出るわけだ。

 こうした「顧客との関係」こそ、クラウドファンディングの持つ、もうひとつの本質である。大手企業がクラウドファンディングを使うのは、評価調査だけが目的ではない。すばやく製品を作り、顧客評価で磨いて外に出す、というサイクルを目的としているのだ。

 商品を社内で磨き上げてから世に出すのが、ひとつの理想であるのは間違いない。だが、そうでないサイクルでのものづくりは存在しており、新興企業ほどそのやり方をよく知り、うまく生かしている。大企業、特に日本企業はそうしたやり方が苦手だが、クラウドファンディングの手法を使い、そういうやり方を社内に取り込もうとしている。それが正解なのか、成功するのかはなんとも言えないが。

 こうした点も含めて考えると、クラウドファンディングの本質は「評価だ」という結論に至る。一方で、消費者からの改善サイクルも含めた「評価」が成立していないなら、それはクラウドファンディングとは言えないのではないか、と思う。海外から仕入れた製品を売るタイプのクラウドファンディングは「評価型販売」であって、クラウドファンディングの持つサイクルの半分しか使っていない。

 いい言葉が思いつかないが、そろそろクラウドファンディングには別の言葉が必要なのではないか、と考えている。その時には、「ニーズの評価」と「完成度の評価」の両方が必要で、どちらか片方だけでは、また別の存在になる……。

 それが、今の筆者の「クラウドファンディング」に対する考え方である。

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