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「リベンジポルノ」にもAI 新技術との正しい距離感は? 各国のAI政策と規制のいまよくわかる人工知能の基礎知識(2/5 ページ)

» 2019年07月18日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

研究から活用の時代へ

 「AIは研究から活用の時代に入った」といわれている。基礎研究は大事だが、さまざまな理論や要素技術を具体的な価値へ結び付けることが強く求められるようになった。実用的なアプリケーションをいち早く開発できれば、そこで確立された手法や規格が業界を支配するかもしれない。

 この考え方はシンプルで分かりやすい。過去の産業育成の手法を流用することも期待できるだろう。そこでいま各国の政府が、特定の業界や領域でのAI活用を進めている。

 例えば中国では、日本の内閣府にあたる中国国務院が2017年7月に「次世代AI発展計画」を発表。この中で「2030年までに中国のAI技術を世界最先端のレベルに引き上げる」ことと「AI中核産業を1兆元(約16兆円)、関連産業を10兆元(約160兆円)以上の市場規模に拡大させる」ことを打ち出した。AI活用のトップを走るといわれる中国ならではの大胆な施策だ。

 欧州諸国も、米中の“2大AI大国”に追いつこうと活気づいている。ドイツ政府は、2018年11月に「AI国家戦略 -AI Made in Germany-」を発表した。この中で、中堅企業によるAI活用と、大学発のスピンオフ(大学で研究開発された技術のビジネス化)を支援するプログラム「EXIST」への予算増加が打ち出された。

 少し前に、ドイツが打ち出した「インダストリー4.0」というコンセプトをご存じの方も多いだろう。これは実用化が進むIoTを活用して、製造・流通プロセスをデジタル化し、自動化や最適化を進めようというもの。ドイツ政府は自国の強みである製造業を後押しするために、IoT技術の具体的な活用を図ったのだ。

 ドイツでは、中小企業が製造業を下支えしているといわれる。そこでAI国家戦略でも、中小企業におけるAI活用と、スピンオフによるAIスタートアップの創出を盛り込んだのだ。

 ちなみに隣のフランスでは、2018年3月にマクロン大統領が発表したAI戦略で、「医療」と「輸送」へ戦略的に投資するとしている。

 日本では2019年6月に、内閣府の統合イノベーション戦略推進会議が「AI戦略2019」を定めた。AIの社会実装において優先すべき分野として「健康・医療・介護」「農業」「国土強靭化」「交通インフラ・物流」「地方創生」が掲げられている。こうした特定領域をターゲットとした支援策は、今後もさまざまな形で進められるだろう。

 一方で、前述の「インダストリー4.0」については、製造業にターゲットを絞ってしまったためにドイツ国内で他領域でのIoT活用が進まなかった、という批判があることも覚えておきたい。ある分野への肩入れが、結果的に別の分野への足かせになってしまう事態は避けたい。

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