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巨大SNS企業が、国家を滅ぼす――アニメ「ルパン三世 PART5」は“官僚の教科書”だったアニメに潜むサイバー攻撃(2/6 ページ)

» 2019年08月23日 07時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 何を言ってるんですか。もう実際にやっている国があるでしょう。『BBC 記者 カメラ 特定』でググりましょう。

K: ……。えっ、わずか7分で?

F: 国にはそれぞれのスタンスがあるので、ここでは是非は述べません。単に現代のテクノロジーで可能といえば可能ということです。その国で可能ならば、私たちがいる国家形態の国でも可能ですし、「やっていないだけ」の技術なんです。ただ、個人的に一番恐ろしかったのはヒトログの「証拠レベル」判定ですね。

K: ネットリテラシーが低い石川五ェ門が振り回されていましたね。

F: 五ェ門は自分の情報の中に、ルパンの手下であると書かれていたことに憤り、ルパンが不二子を救出するためにマウルに侵入した際、自分をどう思っているかと詰め寄ります。しかし実は、その情報が証拠レベルEランクの“ガセネタ”だと、ルパンから言われて諫められます。五ェ門はすぐには信用しませんでしたが、試しに「石川五ェ門は焼き鮭では皮の部分が好き」と、同行していたアミに書き込ませたところ、判定結果がAランクだったので納得しました。

K: 皮、ちょっとかわいかったですね。

F: 確かに、皮を残して最後に食べている五ェ門を想像するとかわいいです。このA判定は本人自身の情報ではなく、同じような人物類型からの推測なのですが、こういう推測方式でA判定を出せるのかと思うと、怖くなりましたね。推測したAIはどういう情報を集めているのか、どれぐらいのモデルデータがあるのかとか。

K: 統計の母数次第ですかね?

F: 統計のベースとなる人口という点でいえば、もはや世界最大の国家レベルのユーザー数を誇るSNSもあるわけで、SNSの運営企業がどの国よりもモデルデータを持っていてもおかしくはないです。それに、最近でこそ慎重ですが、一昔前はSNS運営企業がこうしたプライバシーを侵害するような機能を実装していたわけですし、背筋が寒くなりました。この道を進むと私刑的犯罪予測の場の提供につながるのではないかと思います。

 またこの話に先立って、アルベールが大統領の出席する会議で、パダールでのヒトログの大規模導入を報告した際に、大統領とこういうやりとりをしています。

 大統領「国民の管理は国家の生命線だ。ヒトログはそこに手を突っ込もうとしているというのか?」

 アルベール「おそらく。(中略)国家という形態を壊す、革命と考えていいかと」

 アルベールの言葉を好意的に捉えれば、人に刑を科すのは、私刑をなくすために国家に与えられた役割であり、それらを含めた統治機構を、私企業のサービスが意図せず侵し始めるという意味です。アルベール個人の考えからすると、俺の獲物に手を出すなということですね。

ルパンの逆襲

F: いったんは五ェ門の疑念は収まりましたが、彼が1人になった隙を狙ってエンゾがソーシャルエンジニアリングの手法で火を付けます。いわく「確かにヒトログに書かれていることは違うようだ。だがもっとふさわしい言葉を1つ思い付いた。ルパン三世にとって、五ェ門はコレクションである」

 この言葉にヒトログがA判定を付けたことで、五ェ門の心が揺さぶられ、不二子を取り戻そうとしていたルパンにその場で決闘を挑み、重傷を負わせます。そこにルパンを追いかけてきた銭形警部が現れ、ルパンと五ェ門は逮捕されてしまいます。

photo 原作:モンキー・パンチ ©TMS・NTV

K: こういってはなんですが、五ェ門は精神攻撃に弱かったですね。

F: エンゾの言葉による攻撃は、相手の弱い部分を見切った、これぞソーシャルエンジニアリングという感じものでした。正常な判断能力を奪って、心をかき乱し、そして自分の思い通りの行動をさせる。シェイクハンズ社にルパンが侵入してきたとき、どうやって立ち向かうのかと考えていたのですが、まさか仲間割れさせるとは。

 五ェ門はその道を究め真面目で一本気であるが故に、こういった攻撃には弱かったし、また同時にハッカーは人をハックすることにも長けているというのを見せつけられました。高度なソーシャルエンジニアリングとはどんなもんやと思う人は、これを見てみるといいでしょう。

 いったんルパン対ヒトログ(+エンゾ)の戦いは、ルパンの負けになるわけですが、ルパンが護送される途中、シェイクハンズ社から逃げ伸びていた次元が、ルパンの救出に現れます。次元もまた逃亡中で、ヒトログにあと一息のところまで追い詰められていたのですが、彼を救ったのがなんとアルベールでした。おそらく、ルパン救出の支援もしたのでしょう。今回のルパンは特に、男と男の一言では言い表せない関係がたくさん描かれています。熱いです。

K: 次元がルパンを助け、彼に「ここらが潮時なんじゃねぇか」といい、時代は変わった、引退しろと引導を渡しましたよね。でも、そこから……。

F: おっとそれ以上は言っちゃいけない。サイバーセキュリティに直接関係しない部分のネタバレはしませんよ! 次元が助けたことにより、ルパンは反撃を始めますが、なぜかぱったりとヒトログにルパンの情報が現れなくなります。その過程で協力する人々のこともまたサイバーセキュリティに関係がないので語りませんが、グッときます。

 そして1カ月後、ルパンが反撃に転じます。

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