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巨大SNS企業が、国家を滅ぼす――アニメ「ルパン三世 PART5」は“官僚の教科書”だったアニメに潜むサイバー攻撃(4/6 ページ)

» 2019年08月23日 07時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 真実を暴露しまくってテロ組織としての認定をされるということはないでしょうが、既に国家を脅かす存在とはなり得ます。

K: SNSを使って? 米国の大統領選挙の話はもう飽きましたよ(過去の連載を参照)。

F: 違います! ポイントは某SNS企業が発行しようとしている仮想通貨(暗号資産)です。突然ですが、国家が成立するための三要素をご存じですか?

K: ハローアンダーワールド……じゃなくて、教えてグーグル先生。領土、国民、主権でしょうか?

F: それらに、他国からの承認も加えましょう。領土とはまさしく国土、国民は分かりますね。主権とは統治機構そのものや国民を統治する権力の源を指します。では、これらを踏まえて「国」をインターネット上に当てはめるとどうなりますか?

K: え、国土、はありませんよね。ネットは空間といっても領土的な空間はありませんし。

F: 次に統治機構ですが、国家を管理する能力としては、防衛力、行政機構、通貨発行権などがあります。防衛力については、物理防衛は要りません。サイバー攻撃ができればいいだけです。じゃ、ここで某巨大SNS企業を当てはめてみましょう。国民はユーザー数だと考えると、20億人弱ぐらいのユーザーがいるSNSもありますね。統治機構はシステムそのものとして、エンジニアもいるので攻撃はできなくても防衛力はあるとします。ちなみに国ではないとしても外部からはひとかたまりの集団として「好意的に」認証されていますよね。じゃあ足りないのは何ですか?

K: 通貨発行権?

F: 正解です。つまり某SNS企業は仮想通貨を発行することで、少なくともインターネット上で「われわれは国家である」と宣言した瞬間に、その要件を満たすと考えるべきでしょう。現実世界に存在するSNSのユーザーは、二重国籍、あるいは「他国」への渡航者として扱われたいと要請し、ネットに接続している時間のほうが多いから、居住地はネット上、従って主たる納税義務はSNS国家にある。現実の国家に対して税金を払わなくていいよ、わが「国」はタックスヘイブンではないにせよ、運営費は広告費でまかなえるので格安な税金で済むよ――といわれたらどうでしょう。

K: ええええ、そんなのってありなんですか?

F: 国というラベルを付けるかどうか別にしても、事実上国家と同等になるとどうなるか“頭の体操”です。そして次のステップ、件の仮想通貨は、価格が主要な通貨に対してペッグ(固定)されているといってますが、これをやめれば、一見すると安全資産である仮想通貨が、巨大な発行高と換算レートという戦略的能力を得て、この「国」のようなものに「力」を付与します。

K: 安全を売りにしているのに、そんなことしますか?

F: そういって、ある日、ペッグをやめた国がありますよ。皆さんも知っている国です。

K: どこですか?

F: アメリカ合衆国。かつてドルは金に対して固定で、連邦紙幣は金と交換することができましたが、ある日、ドルとの兌換を停止します。いわゆるニクソン・ショックですね。

K: そんなことがあったんですか!

F: ありました。かつて世界最大の国がやったことがある以上、仮想通貨がドルにペッグされているから安全ですといわれても、そうなくなる可能性もあると考えます。そうなると、先ほどの戦略的な能力を持つ「国」に比肩する存在の誕生とともに、そこに預託していた現実の国の国民の財産の棄損(きそん)の可能性も出てきます。レートが発生すれば現実通貨から見た資産価値は上がりも下がりしますから。従って国民の生命財産、さらには国を守る官僚として、それぐらいの頭の体操は当たり前。

 では、2つ目の頭の体操。仮想通貨をもって、現実世界の国家の通貨に取って代われるか?

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