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Red Hatを買収したIBMの、新たなハイブリッド/マルチクラウド戦略とは?(2/2 ページ)

» 2019年10月31日 17時30分 公開
[谷川耕一ITmedia]
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ミドルウェアを全てOpenShiftに最適化、用途別にまとめたCloud Paksを提供

 既存システムをクラウドネイティブ化する際にも最も問題となるのがミドルウェアだ。アプリケーション部分がコンテナ化できても、ミドルウェアがクラウドネイティブ化していないと「レガシーなアプリケーション全体のクラウドネイティブ化はうまくいかない。そのためIBMでは、多くのミドルウェアをコンテナ化している」と三澤氏は説明する。

 エンタープライズ用途のアプリケーションでは、QoS(Quality of Service)やシステム監査に対応するためのログ管理、詳細なセキュリティ対策などが必要だ。これらはオンプレミス環境では、ミドルウェアの中でシステムごとに対応されてきた。

 IBMではRed Hat OpenShiftにミドルウェアを対応させ、QoSやログ管理などをOpenShiftのKubernetesにシフトした。結果的にミドルウェアは軽量化し、レガシーなアプリケーションをコンテナで稼働できるのだ。

photo ミドルウェアのクラウドネイティブ化の効果

 IBMは現在、独自に開発したものだけでなく、オープンソースのミドルウェアも含め、扱うものをOpenShiftに最適化して提供する方針を採っている。それに沿った製品が、8月にリリースしたクラウドネイティブ・ミドルウェア群「IBM Cloud Paks」だ。

 Cloud Paksは、アプリケーションの構築、デプロイ、実行のための「IBM Cloud Pak for Applications」、データの収集、編成、解析を行う「IBM Cloud Pak for Data」――など5種のミドルウェア群から構成されている。

 Cloud PaksはIBM Cloudにすぐにデプロイして利用できる他、パブリッククラウドのKubernetesサービスや、オンプレミスのKubernetes環境にもデプロイでき、オンプレミスからクラウドまで一貫性のある管理が可能となる。「8月にCloud Paksをリリースした時点で、100以上のソフトウェアがコンテナ化済みだ」と三澤氏は自信を見せる。

photo クラウドネイティブ・ミドルウェア IBM Cloud Paks

 Cloud Paksは、これまでIBMが携わってきた顧客システムのクラウド化プロジェクトの経験に基づいて構成している。ミドルウェアにはIBMが開発したものもあれば、オープンソースソフトウェアも含まれる。ユーザーはこれらを使うことで、管理を統一し、運用負荷を下げられるという。

IBMならではのアプローチで、既存システムのクラウドジャーニーをサポート

 IBMでは今後も、エンタープライズ向けのクラウドサービスに注力し、そのためのセキュリティや可用性などを強化する方針だ。ただ、全てのレガシーアプリケーションをクラウドネイティブ化できるわけではないため、書き換えないアプリケーションは、VMware Cloudでそのままクラウド化するという。

 現状のIBMのクラウドビジネスでは、VMwareを使ったクラウドへの「リフト(Lift)」が大きな割合を占めている。他社もVMware Cloudでハイブリッドクラウド構成をサポートしているが、多くがクラウド側からハイブリッド環境を制御する形になっている。IBMはプライベート側からパブリッククラウドのVMwareをコントロールできるため、他社との差別化要因として打ち出していくという。

 もう1つのユニークな取り組みが、IBM Cloudの東京リージョンのデータセンターにコロケーション(共同設置)のスペースを用意していることだ。VMware化もできないレガシーなアプリケーションは、コロケーションスペースに自社のサーバを持ち込む。そうすればIBM Cloudとダイレクトリンクで接続できるのだ。

 IBM Cloudでは、データセンター間のネットワークを、国内だけでなく海外との間でも無償で利用できる。こういったきめ細かな対応で、顧客の既存システムのクラウドジャーニーに対応できるところは、長年エンタープライズなシステムの構築、運用を担ってきたIBMらしいアプローチといえるだろう。

 「システムのクラウド化には、見えないリスクが存在する。IBMには数多くのクラウド移行の経験があり、ノウハウを十分に蓄積しているため、クラウド移行のリスクを大幅に減らせる。そのことをどんどんアピールしていく。ハイブリッドクラウド、コンテナ、OpenShiftを利用したい顧客を獲得していきたい」(三澤氏)

 現在はAWSやAzure、GCPが席巻するクラウド市場だが、既存のエンタープライズなシステムのクラウド化が本格化してくれば、IBM Cloudも存在感を発揮できるかもしれない。その際にはRed Hatの買収によって得た一連のメリットを、いかに顧客に伝えられるかが鍵となるだろう。

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