2018年10月に、米IBMが米Red Hatを340億ドル(約3兆7000万円)もの大金を投じて買収すると発表し、当時のIT業界では最大のニュースとなった。取引は19年7月末に完了し、新体制が始まってから3カ月が経過した。Red Hatを得たIBMの、現在のクラウド戦略はどのようなものなのか。日本アイ・ビー・エムのキーパーソンに聞いた。
「次世代のIT環境は、コンテナが主流となるだろう。その世代のリーディングカンパニーになるために、IBMはRed Hatを買収した」と語るのは、日本IBMの三澤智光氏(取締役 専務執行役員 事業開発担当 兼 ハイブリッド・クラウド・リード)だ。
次世代のコンテナを主流とした環境では、ベンダー固有の技術ではなくオープンソース技術をいかに活用できるかが優位性を左右する。その部分においても、オープンソースコミュニティーに大きく貢献してきたRed Hatと協業できることは、IBMにとって大きなメリットとなるのだ。
コンテナ管理のデファクトスタンダードになりつつあるオーケストレーションツール「Kubernetes」の展開に注力する狙いもあったといい、「IBMはRed Hatの買収によって、ナンバーワンKubernetesディストリビューターであるRed Hatとの協業で"コンテナコンピューティングのリーダー"を目指す」と三澤氏は宣言する。
Red Hatは、企業向けのKubernetes/Dockerコンテナ基盤「Red Hat OpenShift」を提供している。IBM Cloudではこれを生かし、アプリケーションやミドルウェアを動かすためのエンジンをRed Hat OpenShiftにする方針を採っている。
Red Hat OpenShiftはパブリックだけでなくプライベートクラウドでも動かせるため、IBMは同ツールを採用したハイブリッドクラウドをクラウド戦略の根幹に据える考えだ。
この戦略の競合との違いはどうだろうか。「オープンなOpenShiftをプライベートでも動かすIBM Cloudに対し、Amazon Web ServicesのAWS Outpostsは、プロプライエタリ(企業固有)なPaaSをプライベートで動かすもの。Microsoft Azureのハイブリッドクラウドも、方向性としては似ている」と三澤氏は説明する。
一方でGoogle Cloud Platformは「コンテナ×Kubernetesベース」という方向性を打ち出している。先行するクラウドベンダーはモノアーキテクチャで、追いかける立場のベンダーがオープンスタンダードなマルチアーキテクチャとなっているのは興味深い。
「コントロールをどこが持つか」という点でも、IBM Cloudのハイブリッドクラウド戦略は他社と異なる。他のクラウドベンダーは、プライベートクラウドを完全なマネージドサービスで提供しており、クラウドベンダー側がコントロール権を持つ。対してIBM Cloudは、コントロールをIBMに任せることも、顧客が自ら行うこともできる。
「コントロール権をどこが持つかは、エンタープライズ企業のクラウド化ではかなり重要だ」と三澤氏。「特によりエッジに近いところのシステムでは、クラウドベンダーがコントロールするのは難しい場合もある」とも指摘し、コントロール権を環境に応じて柔軟に変更することが安定的な運用につながると説いた。
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