Googleの共同創業者、ラリー・ペイジさんとサーゲイ・ブリンさんがAlphabetのCEOと社長をそれぞれ辞めました。
立ち上げのころからずっと見てきた者としては感慨深いですが、2015年のAlphabet立ち上げ以降は実質的にはほとんど表に出ていなかった2人なので、驚きはそれほどないです。
2人の退任を発表する書簡には、「Googleも大人になったから、僕たちはがみがみ言わずにやさしく見守る親の役割をやるね」と書いていますが、どちらかというと、責任から解放されて道楽に専念する“ご隠居さん”になるって感じです。
このタイミングでの隠居発表は、なんというか象徴的です。同じ日に、Googleを解雇された4人が会社を訴えました。Googleで労働者の権利を守る活動をしているグループGoogle Walkoutは、2人にこの問題に介入してほしかったのに、沈んでいく船から逃げるのか、と嘆きました。
AlphabetのCEOと社長という肩書きがあると、こう期待されちゃうわけです。楽しいことだけしていたいのに。
2人が労使のぎくしゃくから距離を置きたがっていたのは、昨年11月のストライキあたりから。同社の古き良き伝統である全社会議(TGIF)に2人が参加しなくなったことから分かります。
CNETによると、今年の5月に1回復帰したけれど、労使問題についての質問には2人ではなく、人事部長が答えたそうです。そして、次のTGIFからまた参加しなくなりました。
2人が21年間にやってきたことは本当にすごいと思いますが、それと経営者としてすごいかどうかは無関係。本気で「Don't be evil(邪悪になるな)」を掲げていた2人ですが、Googleが邪悪になりそうなのを積極的に阻止しようとはせず、目をそらしていたように見えます。
内からだけでなく、外部からの圧力もどんどん高まっています。多数の国での独禁法調査やプライバシーの懸念など、問題山積。ほとんどピチャイさんが矢面に立って対処していますが、ペイジさんは、たまに名指しで公聴会に呼ばれたりするのがとても嫌(呼ばれたときは、欠席しました)。退任すれば呼びつけられることもなさそうです。
1998年にガレージでGoogleを立ち上げたころから、2人は会社経営にはあまり関心がなかったようです。やりたかったのは純粋にテクノロジーの可能性を追求すること。だから、2001年にはCEOをお父さんみたいなエリック・シュミットさんに任せて好きなことをしていました(ペイジさんは2011年にCEOに復帰)。
検索のランキングを考え出した2人は、その後もいろいろ思いついて、大成功したもの(Googleマップのストリートビューとか)やいまひとつだったもの(図書館の蔵書をすべて電子書籍化する「Google Books Library Project」とか)や残念だったもの(一般向けの「Google Glass」とか)を実現してきました。
例えば、今では「ストビュー」として誰もが当たり前に使っているストリートビューのプロジェクトは、始まりはスタンフォード大ですが、ペイジさんがマウンテンビューのキャンパス内を車で少しずつ進みながら写真を撮って周囲をあきれさせたエピソードが残っています(どこで読んだのか忘れて検索しても見つかりませんが、TechCrunchも触れてます)。
2人は楽しくておもしろくて役に立つことを、わいわい思いついて実現するのが好きな永遠の少年のよう。
2015年にAlphabetを立ち上げたのも、ムーンショットプロジェクトをGoogleから分離することで、出資者から「くだらない思いつきに無駄遣いするな」と言われないようにする目的だったんじゃないかと、当時の私が書いていました(今でもそうだったと思っています)。
Alphabet立ち上げ後の、2人のステルスっぷりは見事です。SNSの公式アカウントなんてもちろんない(Google+のアカウントは持ってましたがGoogle+はなくなっちゃったし)し、めったに公の場に出ません。YouTubeで検索したところ、動くペイジさんの最新動画は2015年にFortuneのイベントに登壇したものだと思います(相変わらず大きな声が出ないようでした)。ブリンさんは2017年のダボス会議の動画とか、同年のBreakthrough Prize Awardのプレゼンターとしての参加の動画でしょうか。
だから、2人が今、何をしているのかは、よくわかりません。Forbesによると、ペイジさんはもっぱら航空関係のベンチャーに投資していて、ブリンさんもハイテクな飛行機プロジェクトに投資しているそうです。
ペイジさんが入れ込んでいる企業の1つ、Kitty Hawkは空飛ぶタクシーを開発中。最近苦戦しているようですが、空飛ぶ車関連企業としては実現に近い1つとみられています。
プライベートでは、ペイジさんは2007年に結婚したルーシー・サウスワースさんとの間に子どもが1人。ブリンさんはやはり2007年にアン・ウォジツキさんと結婚しましたが2013年に別居し、2015年に離婚。そのころから付き合っていたニコール・シャナハンさんと2018年に再婚しました。
シャナハンさんはLinkedInによると、弁護士で、スタンフォード大のCodeXの研究員で、特許関連企業のCEOだそうです。
2人ともまだ46歳で、プライベートも充実しているようだし、もちろん大富豪だしで、これからも存分に好きなことをして生きていくんでしょう。できればまた、世の中にインパクトを与えるようなことをやってほしいところです。
責任を押しつけられたピチャイさんが心配ですが、Microsoftのサティア・ナデラCEO同様、温和で強靱なインド出身CEOとして会社を支えてくれるでしょう。
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