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「電車内で筋トレなんてシュール」「カオスにならない?」──ネットでツッコミ、JR東の謎アプリが生まれた理由(2/2 ページ)

» 2019年12月24日 07時00分 公開
[安田晴香ITmedia]
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開発は試行錯誤の日々

photo JR東日本 小林知己さん(JR東日本研究開発センター 研究員)

 「一番苦労したのは、車両と自分の位置を正確に検知し、そのデータを基にアプリを作動させることでした」と小林さんは振り返る。Jビーコンとスマホとの検知がずれてしまい、電車は発車しているのにアプリが起動しなかったこともあったという。利用者がストレスなく使えるよう、細かな調整を繰り返していった。

 アプリのユーザーインタフェースを決めるのも苦労した。利用者は電車に乗りながら、アプリを操作してトレーニングを行う。操作やアプリの指示が分かりづらいとトレーニングに集中できないため、「ストレス無く、直感的に操作できるかを念頭に置いてデザインしました」と坂入さんは言う。チェックインからチェックアウトまで一連の流れを、1画面ごとにアプリをタップすれば進むことができるシンプルな設計にした。

 BGMや音声ガイドにもこだわった。例えば、精神トレーニングの目を閉じて深呼吸を繰り返すメニューでは、ゆっくりとしたリズムでリラックス効果が感じられるような音楽を採用。音声ガイドも、極力画面を見ずに音声だけでトレーニングができるよう、体の部位の説明や動かし方の表現を工夫した。

 デザインはカラフルなものも候補にあったが、黒を基本としたカラーを採用。普段ストイックに運動しない層でも試しやすい、洗練された世界観を目指したという。

 リリース前に試作アプリを作り、関係者で山手線に乗車してデモも行った。一通りトレーニングを実施した所、座った状態で片足ずつもも上げをして脂肪燃焼を狙うものや、立った状態で背中をそらして背筋を鍛えるものなど、動きが大きすぎて他の乗客に迷惑が掛かりそうなメニューがあることに気付いたという。最終的に、ある程度乗客がいる車内でも無理なくできるもので、効果も十分に見込める87種類のトレーニングに絞った。

アプリの評判は予想以上に「上々」

photo JR東日本 坂入整さん(JR東日本研究開発センター 主幹研究員 データサイエンス・課長)

 アプリの評判は「思ったより上々」と坂入さん。電車内のトレーニングに対して予想以上に「面白い」「時間を有効活用できる」といった好意的な意見が多く、坂入さんは「真面目なイメージのあるJRが面白いことを始めた、と知っていただけたことは良かったです」と言う。

 小林さんも「ネットでもっとたたかれるのではないかと予想していました」と話す。「電車内でトレーニングなんて」とTwitterなどで炎上する最悪の事態も想定したが、「電車で体験できる新しいサービスは、お客様にとって需要があると気付けました」と続ける。

 既に、利用者からはフィードバックが寄せられている。‘TRAIN’ingではスクワットやかばんを上下に動かす運動などがあるが、「電車内でやるのは恥ずかしい」という声がいくつか上がっているという。

 また、山手線の乗車率をリアルタイムに反映してトレーニングを組むわけではないため、「混雑時は周囲に迷惑が掛かってしまう」「やる場所を選ぶ」といった声も寄せられた。記者もやってみたところ、確かに周囲の目が気になったり、混雑で実践が難しいメニューもあった。

 「さまざまな声をいただいているので、今後のアップデートや他の研究開発につなげていければ」と坂入さん。‘TRAIN’ingの提供に確かな手応えを感じており、電車内で利用できる新サービスの開発も検討しているという。

photo 2人がおすすめするトレーニング「シートショルダークレーン」。「かばんが重いほどきつい」(坂入さん)
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