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AIは民主主義をアップデートするのか? 統治とテクノロジーの関係よくわかる人工知能の基礎知識(4/5 ページ)

» 2020年01月10日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

把握:必要な情報を瞬時に得る

 画像認識や音声認識技術の向上によって、これまで人間にしか把握できなかった情報を把握する、あるいは人間でも難しかった情報を圧倒的な規模とスピードで把握することが可能になってきた。

 中国政府の「天網」がその代表例で、ロシアなど他の権威主義的な国家でも同様のシステムが整備されつつあるが、民主主義国家でもこうした事例は見られる。

 インドではより大きな規模で、社会問題の解決に顔認識技術を役立てる例が登場している。インドでは毎年、多数の児童が失踪している。労働力として人身売買するために、犯罪組織によって計画的に誘拐される事例も多い。その数は年間5万人とも10万人ともいわれ、正確な数すら把握できていないのが実態だ。

 そこでインドの首都ニューデリーの警察が、18年4月に顔認識技術を使った捜査を試験的に実施した。複数の児童養護施設にいる4万5000人の児童を対象に顔認識を実施し、その結果、2930人の身元が特定されたという。

 こうしたAIによる行方不明者の捜索は、連れ去れてから時間が経過した児童を発見するという点でも望ましい。児童の場合、成長によって顔が変わってしまうため、顔写真だけを手掛かりにした捜索は難しい。先進国では、成長した顔を想像し、それをCGで再現して関係者に配布するという対応も行われている。AIなら成長した顔を自動生成できるので、発見率の大幅な上昇が期待できる。

 AIであれば、大勢の人々が写っている映像からも、瞬時に目標の対象者や行為を把握可能だ。米国とインドに拠点を置くスタートアップ企業Skylark Labsは、「ASANA」(Aerial Suspicious Analysis、上空からのリアルタイム問題行動分析)と名付けられたドローン監視システムを提供している。このシステムは、ドローンによって上空から撮影した群衆の映像の中から、「殴る」「蹴る」「武器を使う」といった行為を抽出し、通報できる。一方で「ハイタッチする」「ダンスする」といった、危険行為に見える可能性があるが実際には危険ではない行為はきちんと除外でき、間違った通報をして警察官を煩わせることはないとしている。

 他にも、「木が伐採される音をマイクで拾ってAIに解析させ、違法な森林伐採を摘発する」「運転中のドライバーがスマホを操作していないか、道路に設置された監視カメラの映像から把握する」といった取り組みが行われている。「把握」の領域は、国家権力による監視というイメージが強いが、こうした公共性の高い事例は、民主主義の社会でも比較的受け入れられていくだろう。

予測:高い精度で未来を占う

 最後は予測である。ここでは、司法におけるAI活用に注目したい。米国では既に、刑事事件で有罪判決を受けた被告にどのような刑罰を科すか、あるいは保釈申請を認めるか否かといった判断に、AIを利用している。

 米equivant社が開発した「COMPAS」は、対象となる人物のさまざまなプロフィールや犯罪歴、あるいは過去に発生した膨大な犯罪の傾向といったデータを基に、その人物の再犯リスクを算出する。裁判官はそれを参考にして判断を下す。

 ただし、COMPASはセキュリティの観点から具体的にどのようなロジックで判断しているのか明らかにされていない。また有色人種のリスクを高めに評価するバイアスがあるのではないかという指摘もあり、米国内では批判が大きい。人の一生を左右しかねない恐れもあり、中国やエストニアなど一部の国を除き、司法における予測AIの導入は歩みが遅いのが現実だ。

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