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AIは民主主義をアップデートするのか? 統治とテクノロジーの関係よくわかる人工知能の基礎知識(3/5 ページ)

» 2020年01月10日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

効率化:従来は不可能だった効率を実現する

 機械は人間よりも速いペースで作業をこなせるため、自動化の多くでは、作業の代替と同時に効率化も達成される。本記事では、特に人間だけでは不可能なほど圧倒的な効率化が実現されることを「効率化」と定義したい。

 そうした圧倒的な効率化は、従来では達成するのが難しかった価値や、全く実現されていなかった価値を生み出すことが多い。そうした例として、まずは富士通が開発した「FUJITSU 公共ソリューション MICJET MISALIO 子ども子育て支援V1 保育所AI入所選考」というソフトウェアを挙げよう。

 日本国内の待機児童数が多いことは、大きな問題になっている。保育所への入所を希望する児童の数が多いと、選考作業は膨大になる。単純に足切りするだけでも、公平なルールに基づいて数万人の児童を落選させなければならず、入所できる児童についても個々の事情に合わせた最適な施設を割り当てなければならない。そのため選考を行う各地の自治体には、大きな負荷がかかっている。

 それをAIに支援させようというわけだ。自治体の規模、すなわち彼らが管理する保育所の数や、それに対する入所希望者の数にもよるが、このソフトウェアを使えばこれまで人力で数百〜数千時間かかっていた選考を、数秒で完了できるという。算出された結果は「優先順位に沿って全員が可能な限り希望をかなえられる割り当て方」としている。

 十分な時間があれば人間でもこうした割り当てができるだろうが、入所希望者数と自治体の人的リソースを考えると、あまり現実的ではない。ここでのAIによる効率化は、単なる業務の省力化以上の価値を実現している。

 同じように、高い効率性によって大きな価値を実現している例として、英国のStreetLinkという団体の取り組みを挙げよう。

 彼らはスマートフォンアプリを通じたホームレス支援活動を行っている。このアプリは、ユーザーがホームレスを見かけた際に、その詳しい情報(居場所や様子など)を報告してもらうことで、彼らが路上で凍死するのを防ぐためのものだ。StreetLinkは報告を受けると、それを自治体などの当局に連絡すると同時に、救援チームを派遣して避難施設へ誘導するといった対応を行っている。

 ただチームの人員や施設の受け入れ人数には限りがあるため、寒い夜などにユーザーからの報告が相次いだ場合には、緊急性の高いものがどれかを判断しなくてはならない。そこで彼らが構築したのが、過去のデータと機械学習技術を組み合わせ、緊急性の高い報告を自動で識別するシステムだ。高い精度の判断を瞬時に行うことで、少ないリソースでなるべく多くの人を救おうとしている。

 こうした市民一人一人に対する効率化については、「求職者ごとにマッチした求人を提案する」「災害時にそれぞれの状況に応じた適切な情報を配信する」といった用途で実現されつつある。

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