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コラム
» 2020年01月17日 16時43分 公開

CES 2020:非テック企業がCESで注目を集めた理由 パワードスーツだけじゃないデルタ航空のイノベーション

「CES 2020」の基調講演で聴衆が沸いた。壇上に立っていたのはデルタ航空のエド・バスティアンCEO。パワードスーツやユニークなディスプレイを紹介し、テクノロジーが多様な業界を刷新する事例を示した。

[本田雅一,ITmedia]

 「CES」は、本はといえば全米家電協会(CEA、現在のCTA)が主催する年に二回の見本市(トレードショー)だ。新しい製品、アイデアを持ち寄り、取引を行うマーケットは、まさに「Consumer Electronics Show」だった。

 ところが、今回は多数参加していたエレクトロニクス業界の企業ではなく、デルタ航空の基調講演が聴衆を大いに沸かせた。テクノロジーによって多様な業界が刷新される具体的な事例を示したからだろう。

 デルタ航空のCEO、Edward H. Bastian(エド・バスティアン)氏は、テクノロジーによっていかに航空会社のサービスや日常業務にイノベーションがもたらされようとしているかを語った。

デルタ航空のCEO、Edward H. Bastian(エド・バスティアン)氏(出典はCTA)

 最初に紹介したのはスマートフォン用アプリ「Fly Delta」。アプリの使用状況を収集し、事前のニーズを推測してアドバイスを送る機能を盛り込むという。例えば空港へ行くたびにラウンジを利用している人に対し、出発日前にラウンジの場所をアナウンスする。他にもチェックインカウンターの場所や乗り継ぎ経路、到着する空港での荷物の受け取り場所など、利用者の先回りをしてコンシェルジュサービスを提供する。

 2月には、予約したフライトの正確な搭乗開始時間を知らせる機能をアプリに追加する。搭乗グループ(デルタでは9グループに分けている)ごとに時刻を表示するため、自分のグループが呼び出されるまで待つ必要がない。どのセキュリティゲートを選ぶと混雑が少ないか、といった情報もリアルタイムで教えてくれる。

 その他、ネットで入手できるさまざまな情報(気候に関するものや空港管制や直前の運行状態からの状況予測)などをマッシュアップし、全てFly Deltaに集めるという。空港をよく利用する人なら、こうした改善が空港内でのストレスを大きく減らすことにつながると分かるだろう。

 たったこれだけ、“モバイルを前提とした業務の刷新”をするだけで利便性が大きく変わる。そんなサービスや業界は多いはずだ。

 Fly Deltaも、これで完成というわけではない。

 CESの基調講演では、デルタ航空がライドシェアサービスのLyftと提携したことが発表された。アプリを利用して簡単に予約でき、目的の空港に到着したらLyftの契約車両が配車スペースで待っているという具合で、配車スペースへの移動もアプリ内でガイドする。いずれはホテルの予約機能もアプリに統合し、ライドシェアと結び付けるという。行き先の指定やホテルのチェックインまで、必要なことが全て1つのアプリで完結する。

 しかしデルタ航空の取り組みでもっとも興味深かったのは、最新技術による業務改善だ。パワードスーツにマルチビューディスプレイ……未来的だと思っていたモノが、現実になった。

90キロの荷物を軽々と持ち上げるパワードスーツ

 CESのデルタ航空ブースに足を運ぶと、そこには通路を歩くことも難しいほど混雑していた。多くの人のお目当ては、デルタ航空が導入するというSarcos Roboticsのパワードスーツだ。

Sarcos Roboticsのエクソスケルトン。「外骨格」を意味し、作業員の負担軽減やケガの防止、作業効率の向上を実現する

 パワードスーツと書いているが、実際の商品は「エクソスケルトン」と呼ばれていた。意味は「外骨格」。人の体を外から包み込む人工骨格を作り、それを電気で動かすことで、作業員の負担軽減やケガの防止、作業効率の向上を実現するという。

 例えば荷物を運ぶ作業なら、一人で90キロまで(最大200ポンド)簡単に持ち上げられる。しかも8時間めいっぱい働いても身体への負担がほとんどないという。

 実際の動きを見ると、まるで踊り出しそうなほど機敏で、素早く動けるのだ。未来的といわざるを得ない。

 もう一つ、未来的だと思ったのが、Misapplied Sciencesの「パラレル・リアリティー」という技術を用いたディスプレイだ。このディスプレイは、最大100人までの利用客に“異なる情報”を同時に表示できる。私とあなたが同じ空港にいるとして、1つのディスプレイを見ているのに映っている映像が違うのだ。

 パラレル・リアリティーというディスプレイは、100個のLEDアレイの上にカスタム設計のレンズを組み合わせ、映像に指向性を与える。見る角度によって任意の映像を見せられるため、例えば子どもと大人に異なる情報を与えたり、ショッピングセンターの吹き抜けに設置して各階の利用者にそのフロアのセール情報を伝えるといった使い方が考えられる。

 ブースではチェックインカウンターから搭乗口に向かうシチュエーションで模擬体験ができた。チケットでチェックインする際、システムが利用者の顔や体格といった情報を取得し、カメラで行動を追跡する。利用者がディプレイを見上げると、その角度に合わせ、その人に向けた情報を表示する。筆者が体験したときは、ビジネスクラスへのアップグレードやゲート(搭乗口)番号、ゲートに向かうべき時間などが表示されていたが、英語ではなく全て日本語だった。顧客ごとにカスタマイズした情報になっていることが分かる。

飛行機を降りて荷物を取りに行くときの画面。全て日本語だった

 見る角度によって表示が異なるディスプレイは以前からある。しかし、それがカメラや空港のシステムにつながることで、空港の利便性に大きな変化をもたらそうとしている。このディスプレイは、ラウンジの乗り継ぎ情報やセキュリティゲートをくぐった後のフライト情報、到着時のバゲージクレイム番号など、あらゆる場所で活用できるだろう。単一の製品ではなく、テクノロジーの“組み合わせ”が新しい価値を創造した。

 CESを主催するCTA(Consumer Technology Association)のアナリストは、こうした現象を「Intelligence of Things」(=IoT)という造語で表現した。さまざまなものがネットにつながり、AIによって連動すると飛躍的に価値が高まる。そのことをデルタ航空は分かりやすく示した。IoTはもう「モノのインターネット」(Internet of Things)ではないようだ。

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