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YouTubeは分断を促すのか動画の世紀(2/2 ページ)

» 2020年01月31日 14時37分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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特定コンテンツを排除する難しさ

 しかしそうしたコンテンツやコミュニティー自体を取り締まるのも簡単ではないことを、別の研究が示しています。

 それは気候変動や貧困といった社会問題に取り組む非営利団体Avaazが発表した、“Why is YouTube Broadcasting Climate Misinformation to Millions?”(なぜYouTubeは気候に関する誤報を大勢の人々に発信しているのか?)というタイトルのレポートです。同レポートによると、例えばYouTube上で“global warming”(地球温暖化)というキーワードで検索した場合、関連動画として表示されるコンテンツのトップ100件のうち、16%に誤った内容が含まれていたのだとか。

photo Why is YouTube Broadcasting Climate Misinformation to Millions?

 ここまでは前述の研究結果や新聞記事を含め、既に専門家が指摘しているところです。面白いのは、そうした誤った情報を含む動画でも、多くの有名ブランドの広告が表示されているという指摘。レポートによれば、サムスンやロレアル、ワーナーブラザーズなど有名ブランド108社の広告が確認されたそうです(しかも確認された広告の5件に1件は、グリーンピースやWWFなど環境・社会問題に関する団体からのものだったとされています)。そのうちサムスンを含む10社は、Avaazの問い合わせに対し、誤報を流すコンテンツに自社の広告が表示されていることを把握していなかったと回答しています。

 もちろんYouTube広告はマスメディアの広告と異なり、広告主がいちいちコンテンツの内容をチェックして出稿するわけではありません。無数のコンテンツに対してアルゴリズムで自動的に広告表示が行われるのであり、広告主が全てチェックするのを期待する方が難しいでしょう(ただし特定のカテゴリーに含まれる動画に広告を表示しない、という機能は存在しています)。

 とはいえ、Avaazの指摘は、偽の情報を含む動画もYouTubeにとって重要な収入源であることを意味します。仮にAvaazの調査通り、そうした動画が全体の1割以上を占めているとしたら、それを一律で削除するという決断をYouTube自体が下すのは難しいでしょう。

 そこでAvaazは、こうした過激なコンテンツに“出稿”している広告主を可視化し、彼らに対応を促すことで、間接的にYouTubeに圧力をかけることを目指しています。実際にサムスンはこの問題に対処し、繰り返されないようにYouTubeに働きかけることを約束したのだとか。またロレアルも、環境問題に関する誤った情報は彼らのブランドイメージに反するものであり、YouTubeに対して技術的な対応を行うよう求めると発表しています。

 ただこうした手法についても、「何が正しい情報か」を機械的に判断することが難しい以上、個別のケースについて事後に対応を迫るという形式になるはずです。世間で話題になっているテーマについて、過激な、もしくは誤りを含む動画が関連動画中で一定の割合を占めてしまうという大勢には影響を与えられないのではないでしょうか。

 YouTubeは今回のAvaazのレポートに対して、調査手法について透明性の点で問題がある、と指摘する声明を発表しています。また誤った情報への対処についても、前述の「情報パネル」機能を開発するなど、積極的に取り組んでいると訴えています。この問題を正確に把握し、正しい対処法を確立するためにも、継続的な調査と関係者間での話し合いが求められそうです。

 その意味で、AvaazがYouTubeに対して提示している、もう一つの要求事項が注目に値するでしょう。それは「誤った情報を含む動画の再生回数が、レコメンデーションアルゴリズムによってどのくらい上積みされたかを示すデータを研究者に公開し、透明性を確立する」というもの。前述のACM FATの発表で研究者が指摘している通り、YouTubeのコンテンツとレコメンデーション、そしてユーザーが形成するネットワークやコミュニティーがどのように機能しているのか、実際のデータを使って証明している研究はまだまだ少ないのが実情です。それを支援するような情報開示をYouTubeが行うことによって、より正確な議論が可能になります。

 YouTubeに限らず、さまざまなコンテンツを伴うソーシャルネットワーク上で、過激なコンテンツやデマがどのように拡散し、影響を与えるのか。そうした研究が、いま本格化しつつあります。「本当にYouTubeが世論の分断を促していた」「実はYouTubeではなく○○アプリのソーシャルネットワークが鍵を握っていた」などなど、どのような結論になるにせよ、事態が大きく動いた後では意味がありません。プラットフォームと研究者だけでなく、広告主である企業、そして私たち一般の人々も、この問題に関心を持つことが求められるのではないでしょうか。

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