一方で、70〜90年代までは、特に首都圏では自動改札機の導入は進んでいなかった。都市部のほとんどの駅が自動改札化されるようになったきっかけは、87年の国鉄分割民営化だった。
民営化後、JR東日本は90年に首都圏への自動改札システムを導入。首都圏の私鉄・地下鉄への導入も本格化することになる。
自動改札機の更新時期は一般に10年程度とされている。現在の交通系ICカードの先駆けとなるSuicaは、JR東日本の首都圏での大規模導入から最初の10年が経過した2000年をターゲットとして開発、実際に翌年の2001年から稼働している。
【修正履歴:2020年2月5日午後3時 Suicaの稼働が始まった年について修正しました】
首都圏の“自動改札機元年”から30年、そしてSuicaのサービスインから20年──今年2020年は「次の自動改札機技術」の導入を考えるにふさわしい時期を迎えているのだ。
ではなぜ、各社が自動改札機へのQRコード導入を検討しているのだろうか。これには「コスト削減」と「利便性の向上」という、2つの観点からの理由が考えられる。
まず、コストの削減について。 TISSの事業担当者は「QRコードから読み取ったデータをクラウド上で処理するシステムに切り替えることで、従来型に比べて処理を簡素化できる可能性がある」と話す。
現代の自動改札機システムは、改札機自体が1つの高性能なコンピュータとなっており、複雑な処理を瞬時に行っている。
例えば、入場駅では磁気切符やICカードが真正かどうかの判定や、入場駅や時刻の書き込みなどを行い、出場駅では運賃の算出やICカード残高の更新を行った上で、改札を開くかどうかの判定する……といった具合だ。
高度な処理を瞬時にこなす性能をもつため、自動改札機の価格はICカード専用改札で数百万円台からと高額だ。磁気切符に対応する改札機の場合、1000万円を超えることもあるといわれる。
判定処理をクラウド上で行う改札機システムでは、全ての駅の改札機をネットワークにつなげる必要はあるものの、機器自体のコストを抑えられる。
そして、クラウド型自動改札機システムの肝となるのは、一連の処理を「ユーザーを識別できる一意のコードに置き換える」ということだ。その「識別コード」が別にQRコードである必要はなく、残高情報とひも付けられた電子マネーの識別番号でも良い。
つまり既存の交通系電子マネーに「識別番号」だけを備えたシステムへ置き換えられる可能性もあるのだ。さらにいえば、顔認証などの生体認証がユーザーを確実に識別できる精度になれば、これも一種の「識別コード」として活用できる可能性がある。
しかし、“クラウド型自動改札機システム”が大規模な鉄道事業者で採用されることは当面ないだろう。完全にクラウド前提のシステムに移行するためには、改札機を含めた全ての設備の更新が必要となるため、大規模な設備投資が必要となる。クラウド型のシステムへ移行する場合は、ICカードの処理システムの刷新と同じタイミングで自動改札機を更新することになるだろう。
QRコード導入の2つ目の理由として挙げた「利便性の向上」だが、これは乗客により便利なサービスを提供できるということだ。
例えばQRコードチケットなら、スマートフォン上でチケットを購入して、そのままスマホで表示できる。FeliCa機能に対応していないスマホでも利用できることから、特に訪日外国人にとっては交通系ICカードを持つよりも便利に使えそうだ。
また、近年国交省などが重点的に取り組んでいる「MaaS」(Mobility as a Service:移動のサービス化)というコンセプトとも、相性が良い。MaaSは“移動”を1つのサービスと捉える概念だ。鉄道、バス、飛行機、タクシー、カーシェアといった各種の移動手段を、統一運賃で利用できるサービスなどがその一例といえる。この時、「統一乗車券」としてQRコードは都合がいい存在になるだろう。
「QRコード対応改札機」の課題としてよく挙げられるのが、QRコードの読み取り処理が遅く、入出場のボトルネックになるのではないかという指摘だ。
前述もしたが、QRコード対応の改札機がすでに国内で導入されている事例はある。それが沖縄のモノレール「ゆいレール」だ。
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