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なぜ駅の改札がQRコードに対応するのか キーワードは「10年スパン」と「MaaS対応」(3/3 ページ)

» 2020年02月04日 18時00分 公開
[石井徹ITmedia]
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沖縄都市モノレールのQRコード対応切符

 ゆいレールの改札機では、QRコードが印刷された紙の切符を改札の読み取り機にかざすことになるが、かざすのに慣れていないと読み取りに手間取り、改札が開くまでに0.5秒ほどかかることがある。ただし、キャッシュレス決済に詳しいライターの鈴木淳也氏がレポートの中で指摘しているように、ゆいレールのQRコード切符は偽造防止のために「セキュアQRコード」が採用されている。これが読み取りを難しくしている一因かもしれない。

 スマホでQRコードを表示する場合、時間経過に応じて券面を更新する仕組みなどを取り入れれば「セキュアQRコード」である必要はないため、実際の読み取り速度はもう少し高速化できそうだ。

 一方で、読み取り速度以外にも、従来方式のICカード乗車券と、スマホに表示したQRコード乗車券を比べた時に、QRコードが“明確に劣る”特徴がある。「QRコードは表示していないと利用できない」という点だ。

ゆいレールのQR乗車券は券面を「かざす」必要があるため、裏表を気にすることになる

 ICカード乗車券は「かざすだけ」で無線通信できる電磁誘導の技術が用いられていて、高速に改札を通過できる仕組みとなっている。一方で、QRコード乗車券は模様を光学的に読み取るため、表示していければ読み取りようがない。

 実際、この点についてはJR東日本の幹部も過去に指摘している。JR東日本の野口忍部長(IT・Suica事業部)は2019年6月の記者会見で「駅でスマホを立ち上げるお客さまが増えると、保安上の不安もある」と語り、都市部の駅で問題になっている“歩きスマホ”が深刻化するのではないかという懸念を示した。

 いかに読み取りをスムーズにできるかという点は、今後QRコード改札の実証実験を行う鉄道各社においても、重要な検討課題となりそうだ。

 2月からQRコード改札をテスト運用する阪神電鉄は「QRコードを改札機にかざして通過する際のかざしやすさ、読み取り速度や反応の良否といった『使いやすさ』のほか、サーバでの処理スピード、ネットワークでの遅延といった『性能』が評価のポイント」とコメントした。

 新型改札機「タッチしやすい改札」の実証実験の一環としてQRコード改札のモニター試験を行うJR東日本は、「今回の試験はQRコードを印刷した紙の切符で改札を通過する際の使い勝手を確認するもの」と説明している。

地方から徐々に導入が進むか?

 「QRコードの読み取りが遅い」という点は、都市部の交通事業者特有の課題といえる。もともと改札を通る乗客が多くない地方の鉄道であれば、QRコード方式でも問題とはなりにくい。大規模なシステム更新が必要となるJRや大手私鉄よりも、地方の交通事業者が導入するケースが先行するかもしれない。

 肝心なクラウド処理システムのコストについて改札機メーカーのTISSは、「現時点ではクラウド処理のコストがどの程度になるかは算定できない」としているが、少なくとも改札機単体での価格は、磁気切符やICカードを処理する改札機よりも安くなると見込める。さらにいえば、「乗客の識別」のみに活用すれば良いため、ICカードに対応するとしてもSuicaのような交通系ICカードの仕組みより安く導入できる。

 さらにQRコード乗車券なら訪日外国人やMaaSへの需要も対応できるとあれば、小規模な鉄道事業者ほど、導入するメリットは大きくなるだろう。

 一方で都市部の大規模な鉄道事業者では、相互乗り入れしている他の鉄道事業者への対応の必要などがあることから、磁気券やICカードで取り入れている共通規格の枠を外れることは難しいだろう。そして都心部では大量の乗客をさばく分、読み取り速度の性能も高いものが要求される。

 ただ、訪日外国人やMaaSへの対応は、大規模な鉄道事業者にとってもメリットだ。例えば「一日乗車券」のみQRコード化したり、MaaS向けの新たなプラットフォームに対応する改札として「QRコード専用改札」が用意されるといったシナリオも考えられる。大規模な事業者にとっては、QRコードは既存の交通系IC・磁気改札システムと併用して、鉄道の新たな利用シーンに対応するための鍵になるかもしれない。

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