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飲み会の帰り道での孤立に、AR シミュレーションで立ち向かうデータサイエンスな日常(3/3 ページ)

» 2020年02月18日 07時00分 公開
[篠田裕之ITmedia]
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ARシミュレーションで導き出した、最適な帰り道の過ごし方

 前述のARシミュレーションを、私が働いている東京都港区赤坂付近で行った。なお、シミュレーションの実施は、交通規則に十分気を付けて、通行人の邪魔にならないよう配慮した。

ARシミュレーションの様子

 50回のARシミュレーションによる結果は下記となる。

ARシミュレーションの試行回数ごとの総コミュニケーション量推移

 最初の10回の試行における総コミュニケーション量の平均は264.1だったが、最後の10回では542.9にまで増加した。総コミュニケーション量は前述の通り、会話人数や会話時間から算出したもので、およそ2倍のコミュニケーションをとれるようになったと考えることができる。

50回のARシミュレーションにおけるデータ概要

 総コミュニケーション量と、各パラメータとの相関係数は下記のようになった。

指標間の相関係数

 最も総コミュニケーション量と相関係数が高かったのは、1会話当たりの平均コミュニケーション量だった。すなわち、いかに相性が良い人を見つけることができたかが重要となる。一方、会話人数はむしろ負の相関があり、多くの人と話せば良いというわけではなさそうだ。詳細は後ほど考察する。

 本データの20%をtest_dataとし、残りの80%をfold4でクロスバリデーションして、機械学習アルゴリズムの一つである「Xgboost」を用いて総コミュニケーション量を予測するモデルを作成した。test_dataに対する予測の平均RMSE(※)は47.7(平均誤差率10.2%)となり、検証に十分な精度で総コミュニケーション量を予測するモデルを作成できた。

※:RMSEとは、root mean squared error (二乗平均平方根誤差)であり、回帰モデルの誤差を評価する指標の一つ

各試行の正解データ(test_data)に対する、4foldごとの予測値

 このモデルにおいて、予測に重要とされたパラメータは下記となった。会話回数が最も予測に重要なパラメータであり、次いで1人当たりの平均コミュニケーション量、1会話当たりの平均コミュニケーション量が続く。総コミュニケーション量と相関係数が低かった会話人数やメンタル消費、1人当たりの平均会話回数は、あまり重要ではないようだ。

Xgboostにおける総コミュニケーション量の予測の重要度

 以上の結果を踏まえて、ここからは、特に総コミュニケーション量が大きかったシミュレーションを参考に、勝ちパターンを考察する。

 最も重要なことは、最初に焦らずに全同僚位置を把握することである。目の前の同僚にむやみに話しかけるよりも、確実に会話できそうなサブグループを探すことが重要だ。

焦らずに同僚位置を把握

 そして会話中に、話し終わった後の行動を考えておきたい。もし相性が良さそう(画面で1会話当たりの平均コミュニケーション量から推測できる)であれば続けて話しかけるべきだし、あまり相性が良くなさそうであれば、同じ同僚に固執せずに別のサブグループを探したい。

 一方、コミュニケーション量が少なくなるのは、どのようなときだろうか。基本的には勝ちパターンの逆である。まず、位置把握にこだわりすぎてチャレンジしないのは良くない。話しかけない時間はメンタルを消費するため、無駄な時間が多いと駅に着く前にメンタルがやられてしまう。

 とはいえ、同僚の位置関係を把握せずに、目の前の同僚に脳死状態でアタックするのも良くない。総コミュニケーション量が低くなるのは、常に行動がワンパターンで負のループにはまっているときであった。

駅に着く前にメンタルがやられるパターン(駅までの距離を残してメンタルが0)

 いかがだろうか。

 50回のARシミュレーションは50回の飲み会の帰り道に相当するが、週1回のペースで飲み会に参加すると想定しても、私は1年分の経験値を得たことになる。もはや、先週の会社の飲み会の帰り道で孤立した私と、同じだと思わないほうがいい。

 本記事の考察を参照いただき、誰も会社の飲み会の帰り道で孤立しなくなった世界の実現を私は願う。

著者プロフィール:篠田裕之

博報堂DYメディアパートナーズのデータサイエンティスト。さまざまな業界において、ビッグデータ分析に基づくコミュニケーション施策提案、商品開発などに携わる。その他、観光、スポーツに関するデータビジュアライズに従事。

「博報堂DYメディアパートナーズでは、メディアが日常のさまざまなシーンに拡がる社会を想定し、生活者行動を各種センサーデータなどによって計測していきます。また、近年の個人データ保護の観点を鑑みて、仮想空間における物理シミュレーションを併用して、現実世界では取得しづらいデータを生成し、店舗やイベントの導線設計などに活用していきます」

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