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勝利の鍵はAI? スポーツとデータ分析の相性が良い理由よくわかる人工知能の基礎知識(3/4 ページ)

» 2020年03月06日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

計測や採点も自動化 AI審判員にかかる期待

 競技を行う上では、審判の存在は欠かせない。本来ミスジャッジはあってはいけないことだが、プレイ中に起きる全ての事象を正確に把握し、判定するのはそう簡単なことではない。

 AIが、そんな審判の目の代わりになる。AIによって高度なデータ解析が行えるようになったことで、映像などの各種データに写っているのは誰か、何をしているのか、正確に何がどこにあるのか等を自動的に把握できるようになった。そのため計測という領域においても、AI活用が進んでいる。

 前回の記事で紹介した、富士通によるAIの体操競技採点システムもその一つだ。これはレーザーセンサーで体操選手の動きを3次元で把握し、得られたデータをAIで解析して、演技内容を数値化するというもの。あとは人間のジャッジが、その数値を参考にして最終的に評価すればいい。

 体操競技は技の高度化などからルールも複雑化しており、公式の採点規則資料は200ページ以上に達している。機械ならばその知識も頭に入れた上で、正しい数字をはじき出してくれる。

 AIが競技全体についてより多くのデータを収集し分析することで、採点の精度も高まっていく。プロの審判員を支援する“AI審判員”が増えていけば、1人の審判が判定するよりも公平性は増していくのではないだろうか。

 採点に関連し、計測におけるAI活用についても触れたい。上記の富士通の例もそうだが、最近では大掛かりな機材がなくても一定レベルのデータを収集することが可能になっている。

 例えば、米サンノゼと香港に拠点を置くスタートアップのNEX Teamが提供する「HomeCourt」というiOSアプリは、スマートフォン1つで、バスケットボールの練習の様子をデータ化してくれる。

 アプリを起動したスマホかタブレットをコート全体を撮影できる位置に置くと、映像内のフリースローラインやプレイヤー、ボールなどをAIが自動的に認識。例えばシュート練習する場合なら、シュートを打った場所やその角度、成功したか失敗したか、一定時間に何回成功したかなどをデータ化してくれる。記録した内容を統計データとして活用したり、コーチやチームメイトと共有したりもできる。

 同社によれば、既に世界170カ国以上で2500万回以上のシュートを記録しているという。手軽にデータを記録できるのは、多くのバスケットボールプレイヤーにとって魅力的なのだろう。

チャットbotの会話を分析してスタジアムを改善

 スポーツはビジネスとも密接に結びついている。球団経営や情報発信、マーケティングなどでもAI活用は始まっている。

 米MLBとの提携も行っているスタートアップ企業のSatisfi Labsは、スポーツ観戦に訪れるファン向けのチャットbotを開発している。彼らは提携企業から試合内容やスタジアムに関するデータを提供してもらい、それをチャットbotにインプットしている。そのチャットbotが専用アプリなどを通してファンからの質問に答える。

 「トイレの場所はどこ?」といった一般的な質問だけでなく、「私のシートはどこ?」のようなユーザーごとの個別の質問にも対応できる。ユーザーの位置情報や、スタジアム内の混雑状況も加味し、「トイレはどこ?」という質問に対して、最寄りの空いているトイレに誘導することも可能だ。細やかな対応によって観戦客の満足度を向上させる狙いだ。

 さらに興味深いのは、チャットbotの会話内容を分析し、それを顧客企業と共有してスタジアムの改善などに役立てようとしている点だ。トイレの場所を尋ねる質問が多ければ、案内表示を分かりやすくしたり、トイレの数を増やしたりするといった具合だ。

 チャットbotはチケット販売に関する質問にも対応可能なため、今後はチケット購入から競技場へのアクセス、競技場内での行動に至るまでの観戦客の行動を把握できるようになるかもしれない。

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