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ディズニーのテーマパークがVRを目指さない理由テック・イン・ワンダーランド(2/4 ページ)

» 2020年04月21日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

1990年代に存在した「DisneyQuest」という施設

 ディズニーとVRの関係の源流にあるのは、1998年にフロリダ、ウォルト・ディズニー・ワールドのパークの外、商業施設内にオープンした施設「DisneyQuest」です。この施設はディズニー初の屋内型テーマパークとして運営されていたもので、建物の中に複数の、現在でいうVRアトラクションが存在しました。

かつてウォルト・ディズニー・ワールドに存在した「DisneyQuest」(2014年撮影)

 アトラクションはまさに、ディズニーがリアルの世界で展開していたものをバーチャル化したものが多く、カリブの海賊のバーチャル版「Pirates of the Caribbean: Battle for Buccaneer Gold」、スペースマウンテンのバーチャル版「CyberSpace Mountain」などが展開されました。これらはVRゴーグルを付けるものや、全天周のスクリーンを用いて、バーチャルな世界に入り込むようなものが作られていました。

 この施設はある意味、ディズニーにおける実験場ともいえるものでした。1990年代後半、VRゴーグルはまだ一般的ではありませんでしたが、可能性を感じこれを一気に運用フェーズまで持ってきたことは、VRの歴史においても大きな意味があったことだと思います。

 しかし、ディズニーをしてもこの施設はさほど大きく話題にはなっていません。コンテンツの面白さということもあったとは思いますが、当時を振り返ったイマジニア(イマジネーションとエンジニアを合わせたディズニーの造語)の言葉によると、VRゴーグルというデバイスは運営者泣かせで、取り付け、取り外しに時間がかかること、それに関連し故障率が高いこと、清掃、メンテナンスのコストが非常に高いことが挙げられています。既にディズニーは、2000年初頭にはVRゴーグルを利用した没入感を利用するアトラクションの問題点を理解していたように思えます。

 それが影響したのかは定かではありませんが、DisneyQuestはその後ほとんどアップデートされないまま、17年にクローズしています。実は日本においても、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが大阪や福岡に屋内型施設を展開することを07年に発表していましたが、程なくして検討は終了しています。

 13年にテクノロジー系カンファレンスである第11回「D:All Things Digital」(D11)が開かれました。ITジャーナリストのウォルト・モスバーグ氏が、当時のディズニーパークス部門代表のトム・スタッグス氏と対談した動画の中で、「ディズニーのテーマパークが デジタルに移行する可能性は」と問うと、スタッグス氏は「スター・ツアーズなどのアトラクションはマルチエンディングを実現しており、実にデジタルだと述べつつ、物理環境における没入感を目指している」と答えました。おそらく、そこはディズニーとして、DisneyQuestを通じ学んだことなのでしょう。

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