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「無人AI店舗」はどんな店なら採算が取れるのか 高輪ゲートウェイの「TOUCH TO GO」と海外事情から見る“無人店舗ビジネス”の今後(2/2 ページ)

» 2020年05月11日 07時00分 公開
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 もっとも、これは「Amazon Go」自体が「外販」という分野に進出するのにタイムラグがあることが前提だ。実際にリアル店舗での実績もある、Amazon Goの基幹技術「Just Walk Out」の外販にAmazon.com自身がすぐに乗り出すなら話は別だ。この辺りの背景については筆者が別誌のコラムでも触れているが、仮にAmazon Goそのものが設備投資の先行で大幅な赤字であっても、今後システムの外販を通じて多くの小売店がこのシステムを導入することになれば、長期的にみて事業全体では黒字となる。

 一方で、Amazonの通販事業を通じて顧客の多くを奪われたと考えている小売店らは、米Walmartを筆頭に「アンチAmazon連合」のようなものを構成しており、これがAmazonを除くライバルらの活動できる素地となっている。

サンフランシスコにあるAmazon Go店舗

TOUCH TO GOの技術を導入して採算が取れる店舗はどこか

 今回スタートしたTOUCH TO GOは、高輪ゲートウェイ店を皮切りに商用店舗を拡大していくだけでなく、システムの外販も当初からうたっている点が興味深い。大手チェーンがシステムを一括導入するのとは異なり、個々の顧客のニーズに合わせてJust Walk Outのような仕組みを提供することでビジネスモデルを成立させている。

 TOUCH TO GOの阿久津智紀社長は、同社の無人AI決済店舗の仕組みがターゲットとする市場について「人手不足に悩む日商30-40万円程度の小売店」と具体的な数字を挙げる。

 「最低でもそのくらいの売上がないと、場所代や人件費、サービスのサブスクリプション代(月間80万円程度を想定という)を支払えないし、逆に売上が倍のような店舗では“無人AI決済店舗”の仕組みでは回しきれず、通常のコンビニのような店舗形態の方が向いている」(阿久津社長)と話す。

 客が多過ぎてもピーク時の回転率の問題から店舗がパンクし、逆に少な過ぎると店舗の維持費を賄えない。客単価は500円前後を想定しており、これは「通常のコンビニ(例えばJR東日本系列のNew Daysなど)と比べて少ない」と阿久津社長はいう。想定する日商から逆算すれば、少なくとも1日あたり600〜800人くらいの来店が必要ということになる。

TOUCH TO GO店舗内の様子。天井のカメラと棚のセンサーの組み合わせで動作する。赤羽でのPoC以降、ソフトウェアのチューニングで複数人数処理を強化したという
TOUCH TO GOの阿久津智紀社長

 阿久津社長は、外販先としては「人手不足の地方のコンビニなどの商店」「ビルや施設内コンビニ」「店舗内店舗」のようなものを想定しているという。

 一般的なコンビニのように常に人を2人以上張り付けておける体制を用意できず、スペース上の制限からフルサイズのコンビニのような業態は導入できない場合、あるいは「特定コーナー向けのミニ店舗」のようなものだ。

 ただ想定するビジネス規模から考えて、地方の店舗ではロードサイド店などのある程度の売上が確保できる場所であったり、ビル内コンビニでも労働人口数千人など、そこそこの規模が要求される。

「無人店舗」でも人手不足解消は困難

 しかし、TOUCH TO GOは「無人AI決済」をうたっているものの、実際に店舗自体は無人ではない。取扱商品によっては未成年か確認するための人員が必要で、高輪ゲートウェイ店では店舗監視をしつつ、リモートでヘルプを行う人員が張り付いていた。同店では、商品補充用の人員が1人と、多人数が同時に進入しないように入り口で交通整理を行う人員が1人と、最低でも3人のスタッフが同時に動いている。省力化とはいいつつも、都心部の駅に唯一あるコンビニでは多人数配置が必須であり、少なくとも人手不足解消にはなっていない。

 逆にいえば、高輪ゲートウェイがTOUCH TO GOの設置場所としては特殊ともいえるだろう。同駅には他にコンビニ施設はなく、利用者が集中する環境だ。現状でTOUCH TO GOのスイートスポットとなるのは、セキュリティ的に問題の少ないビル内コンビニであったり、ピーク時のみ増員を考えればいい地方コンビニなど、阿久津氏が挙げる比較的限られた商圏にとどまるというのが筆者の考えだ。

TOUCH TO GOの高輪ゲートウェイ店ではリモートでの監視スタッフが1人おり、このような認証場面では手前のカメラを使って本人の年齢確認を行っている
開業したばかりで、周囲へのアクセスもまだまだ微妙な高輪ゲートウェイ駅だが、さすがに主要路線の山手線の駅だけあり、かなりの人出がある

移民労働者か、ワンオペか 欧州事情に見る日本の今後

 実際のところ、今後日本で問題となるのは労働人口不足と賃金の上昇だ。

 例えば欧州事情を見てみると、西欧地域では人手不足に備えて移民労働者を大量に導入したが、“慣れ”の問題や低賃金労働による低いモチベーションからサービスの質は必ずしも高くなく、店舗オーナーらは従業員管理や不正対策に頭を悩ませているという。

 逆に、労働人口が少ない一方で、店舗やホテルなどのスタッフも現地人が中心となっている北欧などの場合、賃金の高さのせいか個々のサービスに割り当てられるスタッフは少ない。リーズナブルなホテルのスタッフは最小限の人員で運営され、レストランや商店もピーク時を除けば1人だけのワンオペで回されているというところも少なくない(来店する客も少ないのだが……)。

 こういった部分を割り切って日本もいずれかに舵を切ればいいのかもしれないが、サービス品質低下に対する世間の評価は厳しいのが現状だ。今回の無人AI決済店舗は、主に後者のアプローチで人手不足を解消する手段となり、飽和といわれつつあるコンビニ型サービスの需給ギャップを埋める存在になるだろう。また、昨今の新型コロナウイルスの感染状況の中で、感染リスクを抑えながら食料品店など生活に必要な店舗の営業を継続していくのに有効な手段ともなるかもしれない。

 「無人店舗は人の温もりがない」など、シニア以上の世代を中心にこうした流れに抵抗感を示す層も少なくないだろうが、近い将来に必要不可欠なものとして増加するのは必然の流れだ。こうした抵抗感の解消も含め、無人店舗化の流れを社会的に受け入れていく素地が必要かもしれない。

アイスランドのレイキャビク市内で見かけた典型的なスーパーマーケット。昼の時間帯だが従業員は1人のみで、この状態で店舗をまわしている。もっとも、来客も1時間に数人レベルだったりするのだが……
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