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“繋がりすぎる”ネット時代の誹謗中傷問題、解決策はあるのかotsuneの「燃える前に水をかぶれ」(4/5 ページ)

» 2020年06月11日 09時00分 公開

大半の読者や視聴者は細かい経緯や詳細な事情を理解しない

 あの事件のリアリティーショー番組だけでなく、他の創作物や個人のSNS投稿を含めて、現代は一人の人間が見きれない・読みきれない・調べきれない分量の情報が大量に流通する時代になっています。

 そうなると複雑な事情があり専門家でも簡単には説明ができない状況の話題に関しても、シンプルな切り口で分かりやすい構図で決めつけて演出して受け取りやすい形に変形させる手法が使われることになります。いわゆる不正確で大雑把でも、分かりやすいほうが多数の読者にウケる現象です。

 冒頭の死亡事件の番組出演者がネット上の批判に対して「アレは番組上で悪役を担当している演出になっています」と事情を正確に説明することも可能ではありました。しかし、リアリティーショーの文脈ではそれは野暮(やぼ)な行為で興ざめする反論になってしまいます(悪役プロレスラーがリングを離れたら主役レスラーと同僚として仲良くしていますよ……と言うのは野暮な行為なのと類似している)。

 なので最低限の安全管理として、代理人が間に入って野暮にならない範囲で悪役のヘイト感情を受け止める体制が必須だったといえるでしょう。

言論を封じる裏ワザ

 複雑な事情を正確に説明しても大半の読者や視聴者には広まらない。

 悪質な投稿に訴訟で対処しようとしても、かかるコストに見合わない現状がある。

 そのような非対称性があるので、ネットではある意味で裏ワザ的に他人の投稿を消す行為が選択されることもあります。自分にとって都合の悪い告発や、言論の自由の範囲内といえるレビュー感想のネット露出を減らすことも行われています。

 例えば繁華街で漫画喫茶や個室ビデオなどを経営する、とあるグループ企業や海外研修旅行で不祥事を起こしたある企業についての評判や論評がネット検索結果から続々と消えていったことがありました。

 「悪評を消します」という売り文句でそれらの行為を業務として引き受けている企業も多数存在します。

 著作権違反が横行するネットにおける弱者救済のための仕組みである「DMCAテイクダウン」の仕組みを悪用して、自社の経営者批判記事を検索から消すために使った企業もありました。

 ネット時代以前では、報道として批判してきた週刊誌ライターを根拠無く訴えて金銭的に疲弊させて手を引かせようとした消費者金融会社の事例もあります(SLAPP訴訟と呼ばれる手法)。

 このように本来は違法とはならない批評や言論を「私がムカついたから」「自社にとって都合が悪いから」という動機で、訴訟やDMCAテイクダウン制度を悪用して封殺する手法もあります。

photo DMCA(The Digital Millennium Copyright Act)

ルールを決めればくぐり抜けようとする

 「みんな礼儀正しく悪口をネットに投稿しないようにしよう」と牧歌的に唱えれば理想の状況になるというシンプルな夢は、これまでの人類の歴史から考えても決して実現しません。

 何が感想や批評や主張で、なにが悪質な罵詈雑言なのかを決めるのは言葉遣いや礼儀作法などの文面のルールだけではありません。いわゆるイギリスジョーク風のキツい皮肉や、街宣車の褒め殺し演説のように体裁上だけは丁寧さを保っている言葉遣いに変化するだけで、伝わる意図や本質は悪化するだけだと考えられます。

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