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IaaS市場はなぜ伸びている? 大手3社の戦略の違いは? クラウド業界事情を基礎から徹底解説(5/5 ページ)

» 2020年07月22日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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3社の中では最後発 Googleの戦略とは

 最後はGoogleと、そのクラウドサービスであるGoogle Cloud Platform(GCP)だ。コンシューマー系サービスでは圧倒的な存在感を誇るGoogleだが、IaaS系サービスの提供を開始したのは2013年の「Google Compute Engine」であり、他の2社に比べて遅い。そのためIaaS市場では、GCPは3社の中で最もシェアが小さく、Alibabaの後塵(こうじん)を拝している。

photo Google Cloudの公式サイト(日本語版)。独自の強みを示そうとしている

 とはいえMicrosoftがエンタープライズ系に活路を見いだしているように、Googleも広範なIaaS系サービスを提供しつつ、コンシューマー系サービスで培った技術やブランド力を起点に独自の強みを示そうとしている。

 その一つが、ビッグデータ分析やAIなど、大量データの処理が求められる領域だ。AWSがAmazonのECサイトという、コアビジネスが進めた技術開発から生まれた副産物であるように、GCPもGoogleの検索エンジンや、YouTubeの動画プラットフォームといった巨大インフラから生まれたサービスである。

 そのため大規模なデータを扱うことに強く、エンタープライズ系のユーザー企業の中には、SpotifyやSnapchatのようなリッチコンテンツ系サービスの運営元や、英HSBCのような金融機関などが存在している。

 またAIもGoogleのブランド力が生かされている領域だろう。Googleは「TensorFlow」と名付けられた機械学習用ソフトウェアライブラリを開発し、オープンソース化して公開している。このライブラリはGoogleの各種サービスでも活用されているものだが、それを誰でも利用できるプラットフォームが「Google Machine Learning Engine」である。他にも画像分析用のVision AIや、動画分析用のVideo AI、ディープラーニング向けに構成された仮想マシンDeep Learning VM Imageといったサービスが提供されており、ユーザーのAI開発を支援している。

 さらにGoogleは昨年、自社イベント「Google Cloud Next」で「Anthos」という新しいプラットフォームを発表した。ハイブリッド/マルチクラウドを構築するためプラットフォームで、Googleが自社の大規模インフラで培ったコンテナ化技術を応用。ユーザーはオンプレミスかクラウドかを意識せずシステムを開発・管理できる。ユーザー企業にとって注目のサービスであり、Microsoftが強みを持つ領域に切り込む存在になることが予想されている。

 Googleのエッジコンピューティング分野での目ぼしい取り組みについては、18年に発表された「Edge TPU」と「Cloud IoT Edge」が挙げられる。Edge TPUはエッジ側での推論を可能にするための半導体製品、Cloud IoT EdgeはGoogle CloudのAIの機能を拡張する技術。いずれもAI分野でのエッジ活用を強化するもので、この辺りからもGoogleの目指す方向性が見えるだろう。

 駆け足だが、Amazon、Microsoft、GoogleなどがリードするIaaS市場を見てきた。とはいえこの業界では、中国Alibabaをはじめ、米Oracleや米IBMなど、歴史、強み、ビジョンを持つ企業がしのぎを削りあっている。数年後に順位が大きく様変わりしていてもおかしくない。

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