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RISC-Vの浸透 なぜRISC-Vが使われるようになったのか、その理由を探るRISCの生い立ちからRISC-Vまでの遠い道のり(3/3 ページ)

» 2020年09月04日 09時02分 公開
[大原雄介ITmedia]
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 実際このRaven-3に搭載されていた、Chiselで設計されたRISC-V対応RocketコアはCortex-A5と比較しても遜色ない性能を実現できるとしている(写真7)。

photo 写真7:Cortex-A5との比較。まぁ後発のプロセッサが先行するプロセッサに劣ってたら、それはそれで問題だとは思うが、一応主要なポイント全てでRocketはCortex-A5を上回る性能/特性となっている。出典はHot Chips 27の“Raven: A 28nm RISC-V Vector Processor with Integrated Switched-Capacitor DC-DC Converters and Adaptive Clocking”(PDFへのリンク

 Rocketコアは比較的シンプルなパイプライン5段の構成であるが(写真8)、このRocketのソースコードは誰でも入手し、これをそのまま利用して自身のコアを製造することもできるし、カスタマイズしても構わない。2018年にはやはりChiselで記述され、Out-of-Orderを実装したBroom(Boomという名前も発表に出てくる。どうも設計途中はBoomで、完成したコアはBroomになったらしい)というコアも発表されており、こちらもRocket同様にGitHubで公開されている。こうしたリファレンスの存在は、「自身でコアを作りたい」というメーカーにとっては、開発期間短縮の大きな助けになった。

photo 写真8:一応Linuxが動作する最小限の構成になっており、おまけにFused Multiply-Addまで搭載している。出典は"RISC-V“Rocket Chip”SoC Generator in Chisel”(PDFへのリンク

 もちろんこれは相応に技術力のあるメーカーでないと意味がない話で、「誰でも使えると聞いてFPGAに入れてみたけど動かない」なんて話は煩雑に耳にする。Chiselにしても、これを使いこなすにはある程度VerilogやVHDLの経験が必要だからだ。ただ、これは自前でCPU IPを提供していたベンダーには十分な資料であり、かくして台湾Andes Technologyや仏Cortus、チェコのCodasipといった、それまで独自のCPU IPを提供してきていたベンダーが一斉にRISC-Vに飛びついたのも無理ないところである。

 それだけでなくNVIDIAとかWestern Digitalといった「IPの販売は行っていないが、自社製品に自社開発のASICやプロセッサを採用している」メーカーもこれに続くことになった。例えばWestern DigitalはHDDとSSDのベンダーであるが、そのHDDにもSSDにも制御用のプロセッサが搭載されている。これまではCPU IPを外部から購入して、それを利用して自社で専用ASICを起こし、HDDやSSDに搭載していたが、こうしたベンダーもやはりCPU IPを扱える技術力を持っており、RISC-Vを採用することで、

  • ライセンス料やロイヤリティーを大幅に引き下げられる可能性がある
  • 自社の製品に向いた特徴を持つプロセッサを開発できる
  • 自社に技術が残る

 といったメリットが生まれる。そして、こうしたベンダーがRISC-Vに参画することで、「海のものと山のものとも分からない」RISC-Vなる新しいアーキテクチャが「案外大きく成長するかもしれない」と認識されると、そこからさらにエコシステムが広がるトラクションがかかる要因が生まれることになる。次回はそのエコシステムの話を紹介したい。

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