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「勤務地条件廃止」で応募者急増 GMOペパボが2日で“全社リモートワーク化”できたワケ(1/3 ページ)

» 2020年09月18日 08時00分 公開
[山川譲, 本宮学ITmedia]

 「採用における勤務地の条件を撤廃したため、全国からご入社いただけることになりました」──今年7月3日、そんな大胆な施策を打ち出した企業が話題になった。レンタルサーバやフリマアプリなどを手掛けるGMOペパボだ。

 同社が所属するGMOインターネットグループでは今年1月、新型コロナウイルス対策として、渋谷・福岡・鹿児島のオフィスに勤める従業員の在宅勤務化を発表。5月には、社員の生活や衛生面を考慮した新しい経営スタイル「新しいビジネス様式 byGMO」に移行した。そしてGMOペパボが6月に行ったのが「勤務地条件の廃止」だ。

photo 佐藤健太郎社長のFacebook投稿(2020年7月3日)

 制度変更から約3カ月半。同社によると、例年の同時期と比べて全国各地からの採用応募者が急増。「福岡オフィスを拠点に運営していた部署に関東在住の人から応募いただくことも増え、すでに複数人に入社いただいている」という。

 なぜ大胆なリモートワーク化に踏み切れたのか──。GMOペパボでリモートワーク環境の構築を主導した技術・開発部門トップの柴田博志さん(執行役員VPoE兼技術部長)と広報の伊早坂恵美さんに聞いた。

「週が明けたらリモートワークに移行していた」

 新型コロナ対策としてリモートワークの導入検討を始めた企業の中には、うまく移行できない、移行後も業務がうまくいかないという声もある。一方。GMOペパボではスムーズに移行できた上、社員からは歓迎する声が上がったという。その裏では何が起きていたのか。

 1月にリモートワーク体制へ移行した際、「週が明けたらリモートワークに移行していた、というほど動きが早かった」と伊早坂さんは振り返る。

photo GMOペパボの柴田博志さん(執行役員VPoE兼技術部長)

 「当時はまだ『新型コロナウイルスというものが出てきた』『日本でも感染者が出た』という情報が流れてきた程度でした。まだ世の中が大きく脅威を感じていなかった時期に、トップダウンで素早い経営判断が行われました」

 初日は「会社にPCを取りに行かないと」などとドタバタがあったものの、2日目にはリモートワークに移行。その後、6月に行った社内アンケートでは「リモートワーク体制に満足」という声が約9割に上り、現在では管理職も含めて「ほぼ100%が在宅勤務に移行している」という。

 リモートワークへの全社的な移行を踏まえ、6月には勤務地条件を廃止。すると全国各地からの応募が急増したという。事業主管部署の所在地にとらわれない応募が増えたほか、同社でかつて働いていた元社員の再入社希望も増加。6月以降に寄せられた全応募のうち約2割は、オフィスへの出社を前提としていない遠方在住者からのものだという。

年に1日「誰も会社に来ないでください」……移行支えた“9年の準備”

 スムーズな移行を支えたのが、同社が2011年から行ってきた「リモートワーク訓練」だ。

 GMOインターネットグループでは、11年の東日本大震災をきっかけに、年に1回のリモートワーク訓練を実施。毎年1日だけ完全在宅勤務の日を設けていた。この日は管理職も含めて全員が在宅勤務になり、柴田さんも「その日に誰かが会社に行ったという話はあまり聞いたことがない」と振り返る。

 「リモートワークデーは全員が前日にPCを持ち帰り、当日の朝に始業時間になったら部門ごとの合図で仕事を始める。夕方には『終わりです』とまた合図をする。翌日はPCを持ってオフィスで仕事をする。それだけのことですが、会社の外で働くことで見える景色も変わり、けっこう盛り上がりながらやっていた」(柴田さん)

 社内では「お祭り行事のように」受け取られていたというリモートワークデーだが、スタート後しばらくはトラブルも多かったようだ。「VPNに接続できない」「業務システムやデータベースにアクセスできない」など毎年何らかのトラブルが発生。中には「必要なシステムにPCがつながらないまま終業時刻を迎えてしまった」とこぼす社員もいたという。

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