「量子コンピュータを開発する人材とAIの人材は親和性が高い」――。国内外で研究開発が進む量子コンピュータ。NECの西原基夫取締役兼CTOが「第1回 量子コンピューティングEXPO【秋】」(幕張メッセ)で講演し、量子コンピュータの導入事例や、開発を進める上で課題となる人材育成などについて語った。
NECは、量子コンピュータのコアである「量子ビット」の製造に世界で初めて成功した企業でもある。現在は国産量子コンピュータの2023年の実用化に向けて、東京工業大学などの研究機関とともに開発を行っている。
開発中の国産量子コンピュータの動作方式は「量子アニーリング」と呼ばれる。数ある組み合わせの中から最適なものを選ぶ「組合せ最適化問題」の計算に特化した方式だ。量子アニーリングマシンの製造はカナダD-Wave Systemsが先行しており、NECも同社へ約10億円を投資している。
量子アニーリング方式の量子コンピュータではどんな業務課題が解決できるのか。西原CTOは、物流現場の課題にD-Wave Systemsのマシンを導入した例を挙げる。
物流では、EC(ネット通販)関連の配送はコロナ禍でニーズが高まる一方、現場が体制が追いつかず、1000地点に配送先に対して、数十台の車両で配送する事態となっていた。そこで量子コンピュータが算出した経路を実際の現場に導入したところ、配送に要する距離や時間を約10%削減。配送ルートの最適化や配送車両台数の利用効率をアップさせることに成功したという。
量子コンピュータの開発を進めていく上で、人材育成が大きな課題となる。そのため、NECだけでなく、ユーザーサイドでも人材を育てる必要があるという。
人材育成について、西原氏は「量子というと物理学的な印象を持つかもしれないが、実際は数理工学的なアクションが必要。そのため、AIの人材と非常に親和性が高い」とAI人材の活用を提言する。
実際、NECの社内でも、この分野をリードしているソフトウェア技術者というのはAIの側にいた人材だという。「例えば、機械学習型のプロフェッショナルだったり、HPC(スーパーコンピュータ)のアルゴリズムをやってたりする人材が活躍し、新しいものが生まれている」と西原氏。「AIの人材の強化とシナジーを取りながら、こちら(量子コンピュータ)の人材育成もやってほしい」と呼び掛けた。
今後の実用化に向けては、課題が山積している。西原氏は「量子コンピュータはまだまだ成長途上の技術ということと、使い勝手が悪いということを認識しなくてはいけない」と強調する。技術自体が発展途上のため、市場も成熟化しておらず、アプリケーションやインタフェースなどがそろっていないという。
実用化に向けては何が必要となるのか。西原氏は「最適解を急に求めるのではなく、ある種の近い答えを複数求めて、人間が絡みながらやるというのが重要になる」と指摘する。大きな問題を複数の小さい問題に分担して解くという形だ。
データを分解する上では、業務ごとにアプリケーションが異なるため、量子コンピュータだけでなく、使用するアプリケーションに精通した人材も必要になる。このため、NECは2020年から「量子コンピューティング推進室」という新組織を設置。「NEC側とお客さまがハンズオンでやらないと難しい」(西原氏)として、ユーザーの業務課題に対して、NECの技術者が入って、共同で取り組んでいるという。
西原氏は講演の最後に「量子コンピュータの技術は近い将来の社会・産業・企業に存在する組み合わせ最適化問題の解決につながる。既に適用事例が出始めているが、まだまだ実用には技術の進化が必要だ」と述べ、「産業や企業と一体となり、有用なユースケースの探索を進めていきたい」と力を込めた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR